歯周病と早期低体重児出産との関連




Z 歯周病と早期低体重児出産との関連
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科歯周病態制御学分野
教授和泉雄一、長谷川梢、中島結実子、森元陽子
北海道医療大学歯学部歯科保存学第一講座
教授古市保志
鹿児島市立病院産婦人科部長波多江正紀
はじめに
女性のライフステージにおいて、出産は大きなイベントのひとつである。誰もが大過なく 出産を終え、元気な子供を授かることを望んでいる。
平成13年度厚生労働省発表の統計によ ると、医療技術の進歩により、これまで死産となる可能性のあった低体重児の出生率が年々 増加している。
妊娠24週以降37週未満での分娩(早産;Pre−term birth : PB)、又は、体重 2,500g 未満の低体重児出産(Low birth weight : LBW)を早期低体重児出産(Pre−term low birth weight : PLBW)という。
PLBW の新生児は、様々な疾患に罹患しやすく、新生児死 亡に関係する疾患と深く関わっている。
そのため、出来る限り正期産の週数まで妊娠を維持 させ、胎児が十分に発育するように、出産管理が必要である。
急速に進む少子高齢化社会で は、出産に着目することは社会的にも意義のあることと思われる。
PLBW のリスクファクターとして、年齢、人種、たばこ、アルコール、ドラッグ、初産 等の因子が挙げられている1〜3)。
しかし、これらの因子だけでは、原因の全てを説明できな い。近年、歯周病がPLBW のリスクファクターのひとつである可能性が、アメリカをはじ め様々な国や地域から報告され、注目を集めている。

1.出産と早産のメカニズム
1)出産のメカニズム
出産のメカニズムは古くから注目されているが、いまだ完全には解明されていない。
これ まで、主に考えられているメカニズムを図1に示す。
出産には、頸管熟化と子宮収縮が必須である。
妊娠末期に、プロゲステロンレベルの下降、 エストロゲンレベルの上昇、Cortiotropin releasing hormone(CRH)の上昇、そしてCortiotropin releasing hormone−binding protein(CRH−BP)の減少などにより、妊娠維持機構 の後退が起こると、子宮内でのプロスタグランディンの産生が増加し、頸管の熟化や子宮筋 の収縮につながり、出産に至るとされている。
また、プロスタグランディンは同時にサイト カインも産生させ、そのことが好中球遊走、タンパク分解酵素の産生へとつながり、さらに 分娩の方向へと進ませる4〜6)。

2)早産のメカニズム
早産は、分娩の一連のプロセスが早期に引き起こされたための結果であると考えられてい る。早産の原因の約30%を占める産科器官の炎症疾患を例に取ってみる。炎症反応が引き起 こされる際、サイトカイン、ケモカイン、白血球の活性化、プロスタグランディンなどの炎 症性物質が放出される。
これらは、先に述べた分娩に関わる物質と共通している。そのため、 炎症反応で放出された物質により、早期に頸管熟化や子宮収縮が惹起され、最終的には早期 に分娩が引き起こされ、早産につながると考えられている5,6)。
実際、早産妊婦の血中のサイ トカインレベルを調べた報告では、IL−67〜9)、IL−89)、TNF−?10) が高く検出されている。

2.歯周病と早産との関連性
1)歯周病による妊娠維持機構の早期破綻の可能性
歯周病は、口腔内の慢性感染症であり、歯周病に罹患している部位の歯肉溝滲出液中の炎 症性物質の濃度や総量が有意に高いことが報告されている(IL−611)、IL−812,13)、TNF− ?11)、IL−1?14〜16)、PGE2 17))。
また、歯周病患者の血清中のサイトカイン濃度が有意に高い ことが示され(IL−1?、TNF−?18)、PGE2 17))、歯周治療によりそれらのサイトカイン濃度 が有意に低下する(IL−619)、IL−1?20)、TNF−?21)、PGE2 17))ことも報告されている。
こ れら歯周病でみられる炎症性物質は、出産時に大きく関わるものと共通のものが多い。
この ことから、歯周病によって増加した炎症性物質が何らかの機序で子宮収縮を誘発し、PLBW に関与している可能性がある。
私共の研究22)では、切迫早産妊婦の血清中IL−8、IL−1? レベルが有意に高く、また切迫早産で、実際早産であった妊婦は、正期産であった妊婦と比 べ、同じサイトカインレベルが有意に高いという結果となった。
また、いくつかの歯周パラメーターと血清中サイトカインレベルの間には有意な正の相関関係が、また、それらの歯周 パラメーターあるいは血清中サイトカインと出産時の妊娠週数との間には有意な負の相関関 係が認められた。
このことから、歯周病による血中サイトカインレベルの上昇が何らかの影 響を及ぼし、出産までの期間の短縮につながったと考察できる。

2)歯周病細菌の胎児、胎盤への感染の可能性
口腔内細菌自体が産科器官に感染を及ぼす可能性も報告されている。
2001年、P. N. Madianos ら23)は、産後24時間以内に採取した母親の血清中の歯周病細菌に対するIgG と、出産 時に採取した臍帯の血清中の歯周病細菌に対するIgM を測定した。
そして、歯周病細菌に 対するIgG が増加しない母親では、胎児側の感染が引き起こされていたことを明らかにし、 胎児のIgM 上昇が早産のメカニズムのひとつであると考察した。
この報告以外にも、動物実験ではあるが、歯周病細菌であるFusobacterium nucleatum や、 Porphyromonas gingivalis を用いた歯周病モデルにおいて、それらの細菌の胎盤や胎児への感 染が認められ、胎児の体重減少や死産などが起こることも報告されている24〜26)。

3.歯周病と早期低体重児出産の関連
1)疫学・臨床研究
歯周病と早期低体重児出産との関連に関する報告は、1996年にOffenbacher ら27)によるも のが最初である。
その後、様々な国や地域からなされている。以下に、関連性の有無に分け て紹介する。

_ 関連性があるとした研究
@ Offenbacher らの報告(1996年)27)
アメリカのノースキャロライナ大学に通院中の妊婦よりボランティアを募り、同意 を得た妊産婦124名に対し、妊娠期間中、あるいは産後3日以内に、Clinical attachment level(CAL)、Probing depth(PD)を測定した。 その後、PLBW か否かで評価を行っ た。
その結果、検査を受けた124名の妊婦のうち、PLBW グループ(31名)のCAL の平均値は、コントロールグループよりも有意に大きかったこと、CAL が3mm 以 上の歯周組織破壊を呈する部位が歯列全体の60%を占めた妊婦/母親においては、 PLBW の発現の危険率が、年齢、人種、たばこ、アルコール等のPLBW へのリスク ファクターを加味しても、全体で5.9倍、初産であった母親では6.7倍であったことを 報告した。
A Dasanayake らの報告(2001年)28)
血清抗体価を用いて、低体重児出産との関連性を調べたものである。
アメリカのバー ミンガムのアラバマ大学、あるいは、ナッシュビルのメハリー医科大学に通院し、出 産した妊産婦からランダムにサンプリングされた80名の妊娠中期の血清中の歯周病細 菌に対するIgG 抗体価を測定した後、低体重児出産(LBW)か否かを評価した。
LBW であった17名、正常体重児出産(Normal birth weight ; NBW)であった63名、合計 80名の比較の結果、Porphyromonas gingivalis に対する血清抗体価に関しては、LBW であった母親のほうが、NBW の母親より有意に高い値を示した。
B Mitchell−Lewis ら(2001年)29)
口腔内の歯周病細菌を調べることで、歯周病とPLBW との関連を明らかにしたも のである。
アメリカのセントラルハーレムのSchool of pregnant and parenting teens に通院している妊産婦164名に対し、妊娠中期、あるいは産後3ヶ月以内に採取した 歯肉縁下プラーク中の細菌数を測定した。 その後、PLBW か否かを評価した。
その 結果、145名の妊娠中期の妊婦あるいは産婦のうち、PLBW であった母親では、そう でなかった母親よりBacteroides forsythus, Campylobacter rectus が有意に高く検出され たと報告した。
C Jeffcoat らの報告(2001年)30)
出産時の妊娠週数と歯周病との関わりについて、広汎性歯周病を評価の基準として 用い、明らかにしたものである。
アメリカのアラバマ大学のPrenatal emphasis research center に通院中の妊婦1,313名を対象に、妊娠21〜24週の歯周組織検査で、広 汎性歯周炎(アタッチメントロスが3mm 以上の部位が90カ所以上)と診断された人 の、出産時の妊娠週数関連を調べた。
その結果、広汎性歯周炎の妊婦の37週未満での 出産の危険率は、喫煙、人種、年齢を考慮しても、4.45倍であり、同妊婦において、 35週未満の出産に対する危険率は、5.28倍、32週未満では7.07倍であったと報告した。
D Offenbacher らの報告(2001年)31)
歯周病の進行度と、早産との関連をはじめて明らかにした報告である。
アメリカの Oral conditions and pregnancy(OCAP)研究に参加した妊婦812名を対象に、
(i)妊 娠26週以前の歯周組織検査で、重度歯周炎と診断された人(PD≧5mm の部位が4 カ所以上でCAL≧2mm 以上の部位が4カ所以上の人のうち上位5.5%)
(ii)歯周炎 が進行した人(妊娠26週以前と比較し、出産後48時間以内の検査で、PD 増加≧2mm の部位が4部位以上)と、早産(PB)との関連を調べた。
その結果、PB であった母 親は重度歯周炎である割合が有意に高く、出産時の妊娠週数が早いほど重度歯周炎妊 婦の占める割合が高かった。また、PB であった母親では、歯周炎が進行している人 の割合が有意に高いことを報告した。
E Romero らの報告(2002年)32)
この報告は、中南米のベネズエラから初めてなされたものである。歯周病の評価の 指標と、新生児の体重あるいは出産時の妊娠週数との間の関連性を、相関係数を用い て分析した。
ベネズエラのマラカイボのEl Centro Materno Knfantil Cuatricentencario で出産した産婦69名に対し、産後48時間以内にRussell のPeriodontal Index (PI)を検査した。その後、新生児の体重、出産時の妊娠週数との関連を調べた。
そ の結果、口腔内の健康状態が悪化するに従い、出産時の妊娠週数(相関係数=−0.597) 及び、体重(相関係数=−0.491)が有意に減少したと報告した。
F Lopez らの報告(2002年)33)
中南米のチリから、初めて報告されたものである。チリのサンチャゴのPublic health clinic で妊婦検診を受けており、El Salvador Hospital で出産した妊婦639名を 対象に、妊娠21週未満の歯周組織検査で、歯周病と診断された人(PD≧4mm で、 その部位にアタッチメントロス≧3mm ある歯が4歯以上)と、PLBW との関連を 調べた。
その結果、歯周病でなかった妊婦(406名)に対し、歯周病である妊婦(233
通常出産
(non−TPL)
切迫早産/正期産
(TPL−TB)
切迫早産/早産
(TPL−PB)
図2 通常出産妊婦および切迫早産妊婦の口腔内の状態

名)のPLBW 発現率が有意に高く、歯周病罹患妊婦は、PLBW 既往、定期的な妊婦 検診受診が6回以下、低い体重増加を加味しても、PLBW に対するリスクが3.5倍で あったと報告した。
G Hasegawa らの報告(2003年)22)
アジアから初めて報告されたものである。
医科的に管理されていなければ早産と なった可能性が高い妊婦を被験者にすることで、日本における早産と歯周病との関連 性を明らかにした。
また、血清中のサイトカインレベルを調べることで、そのメカニ ズムに関しても考察している。
日本の鹿児島市内の産婦人科に入院中で、産科的な原 因がないが切迫早産(37週未満に出産の兆候が見られる病態)と診断された妊婦と、 切迫早産と診断されなかった妊婦88名に対し、妊娠中期にPD、CAL、Plaque Index (PlI)、Gingival Index(GI)、Bleeding on Probing(BOP)、歯肉縁下プラークの採 取、血清の採取を行い、切迫早産、および、早産(PB)との関連を調べた。
その結 果、切迫早産と診断された妊婦においてCAL が3mm 以上の割合、BOP、PlI、GI が有意に高かったことが明らかになった。
また、プラーク中の細菌分析では、切迫早 産で実際早産となった妊婦においては、正期産であった妊婦に比べ、Tannerella forsythensis の割合が有意に高かったと報告した。
図2に通常出産妊婦および切迫早産妊 婦の口腔内の状態を示す。
H Carta らの報告(2004年)34)
ヨーロッパのイタリアからの報告であり、歯周病がPLBW と関連があるとしたもの である。歯肉溝滲出液(GCF)中のPGE2や、IL−1??など、客観的な指標も用いて評 価している。
イタリアのAvezzano のUrgical Unit of Avezzano Hospital で出産した産 婦92名を対象に、産後48時間以内にCPITN の検査および、GCF を採取し、GCF 中の PGE2、IL−1??を分析した。その後、PLBW との関連を調べた。
その結果、PLBW 群 では、CPITN が4であった産婦が有意に高かったこと、PLBW 群のGCF 中のPGE2レ ベル、IL−1??レベルは、コントロール群と比較して有意に高い値を示したことを報告 した。
I Mokeem らの報告(2004年)35)
中東の国であるサウジアラビアから初めて報告されたものである。
サウジアラビア のRiyadh のKing Khalid 大学病院にて出産した産婦90名を対象に、産後24時間以 内にPD、BOP、歯石の有無、CPITN を検査した。その後、PLBW か否かを評価し た。
その結果、PLBW 群では、PD 平均値、BOP、歯石の有無の平均値、CPITN 平 均値、いずれにおいても、コントロール群と比べ、有意に高い値を示したと報告した。
J Radnai らの報告(2004年)36)
ヨーロッパからの報告のうち、関連があるとしたものである。
ハンガリーのSzeged 大学産婦人科で、出産した産婦85名を対象に、産後3日以内にPlI、PD、BOP を検 査した。その後、早産(PB)か否かを評価した。
結果、PB 群では、BOP≧50%の人 の割合、PD≧4mm の部位があり、かつBOP≧50%の人の割合が、コントロール群 と比較して有意に高く、PD≧4mm の部位があり、かつBOP≧50%の人は、早産に 対する危険率が5.46倍であったと報告した。


_ 関連性がないとした研究
@ Davenport らの報告(2002年)37)
この分野で、初めて関連がないとした報告である。
イギリスのRoyal London Hospital で出産した産婦743名を対象に、産後24時間以内にPD、出血指数、CPITN を検 査した。その後、PLBW か否かを評価した。
その結果、PD の平均、出血指数の平均、 CPITN の平均値に有意な差が認められず、歯周病の罹患度とPLBW との間には有意 な相関は認められなかったと報告した。
A Moore らの報告(2004年)38)
イギリスのGuy's and St Thomas's Hospital Trust に通院し、出産した3,738名を 対象に、妊娠11〜15週の間に、プラークの有無、PD、アタッチメントロス(AL)、BOP を検査した。
その後、低体重児出産(LBW)、早産(PB)、流産、それぞれに関し評 価した。
その結果、LBW、あるいは、PB と歯周病の指標との間に有意な差は認めら れなかったこと、後期流産妊婦でのみ、歯周病の指標のうち、PD の平均値、PD≧ 4mm の割合の平均、AL≧2mm の割合が有意に高い値を示したと報告した。
B Moore らの報告(2005年)39)
イギリスのGuy's and St Thomas's Hospital Trust で出産した154名を対象に、産 後5日以内に、プラークの有無、PD、AL、BOP を検査した。
その後、早産(PB) に関して評価した。
その結果、PD≧4mm の割合の平均値は、PB であった産婦はそ うでなかった産婦と比較し有意に小さく、その他の歯周病の指標に関しては、有意な 差が認められなかったことを報告した。


このように、疫学調査の結果は必ずしも一致しているとは言えない。
その理由のひと つとして、人種、民族の違いが考えられる。早産の発現率は、地域によって異なってお り(オーストラリアは6%、北米は7%、ヨーロッパは4〜12%、南米は11%、アフリ カは10〜12%、アジアは15%)1)、早産のリスクは黒人で高いとされている3)。
また、歯 周疾患に関しても、若年性歯周炎の罹患率には人種によって差が見られると報告されて いる40,41)。
これらのことから、人種の違いがPLBW と歯周疾患の関連の有無に関係して いる可能性も考えられる。
実際に、歯周病とPLBW に有意な相関が認められるとした 報告のうち、アメリカから報告された1996年のOffenbacher ら27)、 2001年のDasanayake ら28)、Mitchell−Lewis29)、Jeffcoat ら30)__________の報告の 被験者は約60〜83%が黒人であったの に対し、有意差が認められなかったとイギリスから報告された2002年のDavenport ら37)、2004年のMoore ら38)、 2005年のMoore ら39)の報告では、約10〜40%が黒人であっ た。
これらのアメリカやイギリスからの報告の他に、2002年にはRomero ら32)がベネズ エラから、2002年にLopez ら33)がチリから、 2003年に私共22)が日本から、2004年には Mokeem ら35)がサウジアラビアから、Carta ら34) がイタリアから、Radnai ら36)がハンガ リーから、というように、様々な国から報告されている。
このことは、PLBW と歯周 病との関連について、人種、民族という視点から考える上で、非常に興味深いことであ る。
人種以外にも、喫煙、初産、社会経済学的、薬剤投与、歯周病の罹患程度、歯周組織 検査の時期等、様々な要因が結論の違いに影響していると考えられる。
現在までに行わ れた歯周病とPLBW との関連に関する報告は少ない。よって、関連性についての結論 を得ようとするには、報告で用いられている被験者を検討した上で、結果を考慮する必 要がある。今後、より多くの報告がなされ、歯周病とPLBW との関連性がさらに明ら かにされることが望まれている。


2)介入研究
@ Lopez らの報告(2002年)42)
アメリカの400名の妊婦を対象に2つのグループに分け、プラークコントロール、ス ケーリング、局所麻酔下のスケーリング・ルートプレーニングを介入方法とし、研究を 行った。
そして、早産(PB)、低体重児出産(LBW)、PLBW、それぞれの発現率を評 価した。
その結果、歯周治療を行っていないグループ(200名)では、PB の発現率が 6.38%、PLBW が10.11%、LBW が3.72%であったのに対し、歯周治療を行ったグルー プ(200名)では、PB の発現率が1.22%、PLBW が1.84%と有意に減少し、LBW も有 意差はなかったものの0.61%と減少していたと報告した。
A Jeffcoat ら(2003年)43)
アメリカの妊娠21〜25週の歯周病と診断された(クリニカルアタッチメントレベル が3mm 以上の部位が3カ所以上見られる人)妊婦366名を3グループに分わけ、
(i) ブラッシングとポリッシング
(ii)スケーリング・ルートプレーニング(SRP)
(iii)SRP とメトロニタゾール投与、
それぞれを介入方法として、研究を行った。
その後、出産時 の妊娠週数との関連を評価した。
その結果、ブラッシングとポリッシングのみのグルー プの妊娠35週未満での出産が4.9%であったのに対し、SRP とメトロニタゾール投与グ ループでは3.3%、SRP のみのグループでは0.8%であり、SRP を行うことで、妊娠35 週未満での出産が減少することが報告された。
これらの報告により、歯周治療を行うことで早産、低体重児出産の発現率が低下する ことが明らかにされた。
そして、この事は、歯周病とPLBW に関連性があることを示 すものである。

4.医科からみた、歯周病との関連
糖尿病、心疾患、肺炎、気管支炎などの全身性疾患が、慢性炎症性疾患である歯周病と深 い関連があることが、疫学的にも基礎医学的にも証明されてきている。
最近は食道癌との関 連まで推測されるに至っている。ヒトの一生において、次世代に種としての遺伝情報を継承 させようとする過程、すなわち受胎、発育、出産のプロセスが、完全に保証されている訳で はないが、このように、歯周病という遠隔の病巣ですら病態に関わりを持っていることが解 明されつつある。
人類は二足歩行によって、頭蓋を脊椎の上に戴き、脳重量の増加にも対応できるようにな り、エネルギー代謝を大きく増加させることとなった。体温調節がさらに重要となり、体毛 を減少させて発汗を容易にする方法を取るようになった。そのため日光の被爆をよけいに受 けることにより、ビタミンD を作り消化管からのカルシウムの吸収を促す一方で、紫外線 による血管内の葉酸の破壊とマイナスの負荷を余儀なくされている。
上肢の機能向上ととも に、ますます頭脳発育への刺激を容易にインプットできるようになった。二足歩行により高 度な情報処理能力と行動力を獲得したが、他方では妊娠子宮が下方を向き、早産にならない よう子宮口を分娩開始まで堅固に維持しておきながら、陣痛開始となれば頚管を熟化(柔軟 化)し、頚管の開大を促進させなければならないことから、難産と早産の二つの難題を担う ことになった。
ヒトの妊娠は少なくとも15%が流産に至り、その時期を乗り越えたものでも5%が早産を きたす。
早産はいわゆる早産と、破水に引き続く分娩、あるいは人工的に早期娩出を医学的 理由から治療として余儀なくされるものの三つに分類できるが、前二者には子宮頸管への感 染に対して反応性の活性化マクロファージからタンパク分解酵素の放出が起こり、絨毛膜と 頚管のコラーゲン繊維の分解に伴う頚管の柔軟化や破水をもたらし、さらに遊走してきた好 中球からのIL−8の放出によりいっそう頚管の熟化が促進されることが証明されている。
IL −8は内因性の生体物質では最も強力な頚管熟化メディエーターであることが知られてい る。これらは子宮頚管から子宮腔内へと進展していく可能性をも有した病態として説明され てきている。
今回の研究から、歯周病による嫌気性菌の誘導するIL−8が、局所ばかりでなく全身疾 患の一つの表現型として早産に深く関与していることが示唆される。
遙か離れた臓器でのイ ベントが、ある特定の疾患の引き金になるとすれば、病態モデルとしての意義も高いと言え よう。

口腔内衛生管理ができない妊婦は、社会的要因から細菌性膣症や、生活パターンの不規則 性、喫煙、食物摂取の偏りなど他の因子が早産リスクとして関わっていることもしばしばあ るとされる。
歯周病は、慢性炎症性疾患として長期にわたって生体に影響を及ぼしていると 推測されるが、それらに対する介入試験が、有用なポジティブ効果をもたらしうるのか前向 きの無作為比較試験による確認試験が望まれるところである。
消化管を中心とする細菌巣への直接間接効果を目指したprobiotics の概念は、病原細菌に 対する殺菌効果、殺菌性物質の産生、栄養成分の競合的摂取、細胞付着部位の競合、細菌代 謝の変化、酵素活性の促進あるいは抑制、抗体産生能の活性化、マクロファージの貪食能亢 進などの機序を介したものと推定されている。
約300万年の人類の歴史の中で少なくともこの半世紀の間に、先進国では精製した砂糖、 飽和脂肪酸、コレステロール、ナトリウムの摂取が10倍以上に増加し、一方、食物繊維、不 飽和脂肪酸、カリウムは著しく減少している。この変化は腸内細菌叢に大きな影響を及ぼし ている。食品保存技術が未発達であった時代では、食品は常温で備蓄され、更に乾燥、発酵 などにより長期保存されていた。
この状況では、有用生菌のみならず時には病原細菌までも が食品中に多数増えることになり、これらの食品の摂取は消化管に多量の微生物を供給し、 健全な消化管細菌叢形成に大きな役割を果たしてきた。日常的にプロバイオティクスが摂取 されていたともいえる。冷蔵、包装、あるいは食品添加物の著しい進歩により、日常我々が 食べる食物に含まれる生菌の数は数千分の一以下に減っているといわれる。更に抗生物質を はじめとする各種薬剤の服用が現代の先進国における消化管細菌叢の異常を引き起こしてい ると考えられる。生体にとって有益な細菌の有無、無用あるいは有害の細菌の有無、さらに は複数細菌叢の相互作用による環境など、生体と細菌の関与にますます重要な意義が存在す ることが注目されるようになってきている。
このようなプロバイオティクス概念を考えると き、歯周病はなぜ発生するのか、食物が豊富ではない古代にはこのような病態は惹起されに くかったのだろうかと問いかけてみたくなる。(鹿児島市立病院産婦人科波多江正紀)

まとめ
1996年のOffenbacher らの報告以降、疫学研究や、介入試験により、歯周病と早期低体重 児出産との関連が明らかにされた。
2005年にKhader ら44)は、早期低体重児出産における歯 周病のリスクを明らかにするために、メタアナリシス(独立して行われた2つ以上の研究結 果を統合するための手法)を行った。
彼らの選択基準を満たした論文は、1996年のOffenbacher らの報告27)、2001年のDasanayake らの報告28)、Jeffcort らの報告30)、Mitchell−Lewis らの報告29)、Lopez らの報告33)の合計5編であった。
それらの報告から、早産、低体重児出 産、早期低体重児出産、それぞれのオッズ比を求めた。
その結果、歯周病であることは、 早産に対しては4.28倍、
低体重児出産に対しては2.30倍、
早期低体重児出産に対しては5.28倍
であったと報告した。
今回の報告から、メタアナリシスを用いても、歯周病が早産/低体重 児出産/早期低体重児出産のリスクファクターになることが明らかにされた。
この事によ り、歯周病と早期低体重児出産とに関連性があることの信憑性はより高くなったといえるで あろう。
今後は、疫学的な研究に加え、そのメカニズムをより明らかにすることが重要な課題であ る。歯周病は日本の成人の約8割が罹患している疾患であるが、予防、治療可能な疾患であ る。そのため、これら二つの疾患の関連性を明らかにすることは、歯科分野はもちろんのこ と、産科や医科分野、さらには、社会的にも大きなインパクト与えるものと確信している。
参考文献










このホームページの著作権は平田歯科医院に帰属します。
Copyright (c) 2002 Dental hospital HIRATA. All rights reserved.