歯周病と呼吸器疾患、肺炎




V 肺炎について
日本歯科大学名誉教授鴨井久一
はじめに
生活習慣病とは「食生活、運動、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣がその発症・進行に関与 する疾患群」と規定されている。
生活習慣病の範囲については、公衆衛生審議会1)で4項目 に分類している(表1)。
この中で歯周病は2項目のなかで生活習慣病に位置づけられ、歯 科関連では唯一公的に認められた疾病である。
歯周病が生活習慣病に認知された要因を分析 してみる。
1)歯周病は齲蝕と異なり、その発症・進行が緩慢である。慢性歯周炎の定義によると、 35歳位から発症し、その過程は暴発期(バースト)と静止期とを繰り返しながら疾病が 進行する。
2)歯周病は局所因子だけでなく、生体防御因子、環境因子などを含めた相互作用による 多因子性疾患のため、生活習慣などにも左右されやすい。
3)歯周病は歯肉と硬組織(セメント質)を介して局所の抵抗減弱部位と云われる硬組織 と軟組織の接点に歯肉溝が開放されているため、歯肉溝滲出液などを介して好中球・酵 素・歯周病原性細菌などが流出し、炎症部位が開口されているので疼痛と云った症状な どが比較的少ないのが特徴である。
4)歯周病は加齢現象に伴い歯肉退縮、歯槽骨の吸収などが生理的に生じ、最終的には歯 が喪失するという「歯槽膿漏症」時代の発想が根強く根底にある人達が多い。
5)歯周病は古くから全身説、局所説がその時代に反映して繰り返されてきた。全身との 関連は、歯性病巣感染説をはじめ今日の歯周医学における全身との関連性が浮き沈みを しながら現在に至っている。歯周病という疾患とその疾病に関連する全身との関係を明 らかにして、日常生活で行われている生活習慣のなかで、定期的な口腔予防、健康管理 を目指した「口腔健康科学」を確立させ、エビデンスを提供することが質の高い医療に おけるQOL を獲得する要諦と云えよう。

表1 生活習慣からみた疾病
1.生活習慣からみた歯周病、とくに肺炎との位置づけ
生活習慣病と歯周病との関係のなかで肺炎をどのように位置づけるかという点を考察して みる必要がある。歯周病の病原性因子として、局所因子(病原因子)、生体防御因子(宿主 因子)、環境因子(リスク因子)の相互作用による多因子性疾患と云われている。
1)局所因子(病原因子)
局所因子として「歯周病はプラーク(バイオフィルム感染症)に起因する特定な細菌によ り発症する」と定義づけられている。
1980年以降、プラーク中の歯周病原性細菌の細菌学的 研究では偏性嫌気性グラム陰性菌、桿菌などが検出され、代表的な歯周病原菌も明らかにさ れてきている(表2)。
プラークはバイオフィルム感染症とも云われ、種々の細菌の共棲と 凝集により形成され、菌体外に排出した多量の多糖基質に埋め込まれて固体表面に付着し、 不動化された固着性集団を形成している。
歯面への付着機構は、ペリクルと菌体細胞壁との

表2 代表的な歯周病原性細菌
図1 バイオフィルムプラークの電顕像

間に細菌が非特異的に吸着する場合と細菌が鞭毛や細胞壁表層に存在する付着因子によって 宿主のレセプター(糖タンパク質)が特異的に付着する場合とがある。
形態的特徴としては、 異なる細胞集団の積み重ねではなく共凝集という細菌種が相互に作用する能力があり、キノ コ状の微小集落間に水路を発達させた特異的構成体である。バイオフィルムで形成された細 菌はglycocalyx などの細胞外多糖の合成、分泌が関与し、形成されたバイオフィルムは界 面活性物質で宿主免疫細胞の貪食作用、抗菌剤に対して抵抗作用を示すと云われている。従っ て歯周病原性細菌の誤嚥による肺炎や体内挿入器具に固着した執拗なバイオフィルム原因に よる感染症は治療を困難にしている(図1)。

2) 生体防御因子(宿主因子)
生体防御因子は免疫機能からみた場合、自律神経の交感神経と副交感神経の均衡が重要 で、免疫機能のバランスが崩れると白血球中の顆粒球とリンパ球の割合が不調和になり、恒 常性(ホメオスターシス)が崩壊してくる。
通常、高齢になると生体機能の中で免疫機能の 低下により嚥下機能と気道内異物排除とによる防御機能が低下し、粘膜上皮の線毛による異 物排除機能や肺胞マクロファージの貪食能が減少してくる。
誤嚥による感染(肺炎)が生体 内で繰り返し行われている。
歯周病と関連するダウン症や侵襲性歯周炎(若年性歯周炎)などの病態像では、免疫機能 を活性化するサイトカイン療法、アポトーシス療法やリンパ球導入療法などが検討されてい る。

3)環境因子(リスク因子)
環境因子は口腔内に直接関わる因子と生活習慣に関わる修飾因子とに分けられる。
_ 口腔内因子
@自己の口腔内に無関心
口腔清掃をおろそかにし、歯・歯肉・舌・粘膜などにバイオフィルムプラークを蓄積 させ歯周病の発症・進行を早めている。
A咬合の異常
歯軋り(ブラキシズム、クレンチング、タッピングなど)は歯周組織に過剰な力によ る負担を掛け、炎症の発症と共に歯周病進展の原因となる。精神的不安定(ストレス)、 薬物依存症、口呼吸、歯列不正、咬合性外傷などが因子として挙げられている。 _ 生活習慣による修飾因子2)
@咬合・咀嚼との関係
咬合の不正と全身への影響は多く論議されている。
頭痛、肩こり、背部筋痛、めまい、 耳鳴り、不定愁訴、姿勢維持、平衡感覚などが関連し、今後の研究がより一層望まれる ところである。
咀嚼、よく噛むことは肥満の防止につながる。早食いは脳幹の視床下部 にある食行動を指令する摂食中枢と食べることを中止させる満腹中枢とがあり、咀嚼 後、血糖値の上昇には20分前後を要するのでゆっくりよく噛むことが重要である。また 血流の促進による痴呆症(認知症)の抑制にもつながる。

A歯周病と全身疾患の因子 歯周病が口腔内の疾患だけでなく全身疾患に罹患するリスク因子との関連を歯周医学 (periodontal medicine)という用語で報告されている。
歯周医学の概念はバイオフィ ルムプラークとその修飾因子が全身への疾患にどのように伝播するのを防止するかとい うことで、今後の口腔ケアの方策を認識させる重要な課題である。
・歯周病と呼吸器感染症
呼吸器感染症は口腔内プラーク細菌(P. gingivalis、A. actinomycetemcomitans)が肺へ 吸引され、細菌性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎などの原因に なることが知られている。
とくに本稿では、高齢者の嚥下反射で誘発される食物や 唾液などが誤って気管に入り、誤嚥性肺炎を発症させるリスクの大きいことを論証 する。
・歯周病と全身との関連因子として心臓血管疾患、糖尿病、早産・低胎児症、喫煙な どの生活習慣病がもたらす諸原因について口腔領域からの新しい知見を提示し、国 民への情報開示を行う必要がある。


2.肺炎
肺炎とは「細菌、マイコプラズマ、真菌、寄生虫、ウィルスを含む多種にわたる感染性病 原体が肺の実質に感染することで惹起される一連の疾患群」と定義されている。
肺の組織に 発症する炎症を総称しており、感染性肺炎として細菌性肺炎、ウィルス性肺炎、心筋性肺炎 などがあり、非感染性肺炎としてアレルギー性肺炎、薬剤性肺炎などがある。
感染性肺炎は 細菌性肺炎が主で生命を脅かす感染症で、昨今はウィルス性肺炎を含めた複合性肺炎がみら れるようになった。
1990年における全世界の死亡原因は第3位であり、日本においても死因 別死亡率は第4位を占めている。とくに高齢者においては生理解剖的にも気道と食道の閉鎖 が不十分となり、さらに免疫機能の低下により肺炎による有病率と死亡率を増加させてい る。
本邦では65歳以上の高齢者で肺炎による死亡率は9割を超えて第1位を占めているとい う報告もあり、加齢に伴う重症化も大きな社会問題となっている。
肺炎は一般社会で感染し たもの(市中型肺炎)と病院ないし介護施設型肺炎などに区別される。
前者の病原体は、通 常Streptococcus peneumoniae、Haemophilus influenzae、Mycoplasa peneumoniae、 Chlamdia peneumoniae 、Legionella pneumoniae、Staphylococcus aureus、Candida albicans その他嫌気性菌に よるものが多く含まれている。
後者はその原因となる病原体が異なっており、院内感染とし てグラム陰性桿菌が主体でEscherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Serratia sp、Enterobacter sp、Pseudomonas aeruginasa、Staphylococcus aureus などがみられる。
介護施設での病原体は Prevotella melaninogenica、Capnocytophoga sp、Prevotella denticola、Fusobacterium nucleatum、 Prevotella intermedia など嫌気性微生物が検出され、菌相に大きな差異3,4)がみられている。
本稿では歯周病関連の生活習慣病に起因する肺炎ということで誤嚥性肺炎を中心に述べる。

1)誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは「食物や水分が嚥下時に口腔から咽頭に送られ、食道に至る過程が嚥下障 害により気管へ送られ気管支などで発症する肺炎」を総称している。
高齢者、とくに要介護 高齢者で基礎疾患による寝たきりの老人、痴呆などの意識障害、脳外傷、脳血管障害による 後遺症、医療のなかでの気管切開、経鼻胃管の留置に伴う口腔内放置、加齢に伴う機能生理 的変化などが発症要因として挙げられている
。管理ガイドライン5)によれば誤嚥性肺炎には、 誤嚥したものの性状、臨床病態像により肺の中毒性障害(胃酸誤嚥)、異物又は液体による 閉塞、さらに細菌感染といった3つのカテゴリーに分けることができる(表3)。
誤嚥に対 する標準的な診断基準はないとされているが、市中肺炎で入院患者の5〜10%に、院内・介 護施設では90%弱が誤嚥によることを示唆している。
一般的には誤嚥しやすい原因をもった 患者(意識低下や嚥下障害のある患者)、肺区域(立位では下葉、臥位では下葉の上区域と 上葉の背側区域)に依存した病変が胸部エックス線写真像の所見に認められた場合は、誤嚥 性肺炎を疑う必要がある。

2)誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)
誤嚥性肺炎は通常、顕性誤嚥(macro aspiration)と不顕性誤嚥(micro aspiration)に分 けられる。
前者は嚥下障害が明らかな機能障害を伴うもので、後者は無意識下で嚥下反射と 咳反射の低下によって生じるもので、とくに脳血管障害の人に多くみられ、さらに気管支粘 膜上皮細胞の線毛における異物排除機能も低下している場合である。
これらの現象は寝たき り高齢者に多くみられる。いずれも就寝時に嚥下反射の低下をきたし、微小誤嚥を繰り返し 行っている頻度が高くなっている。

3)誤嚥の機序と歯周病原性細菌のかかわり
歯周病原性細菌がどのような過程で肺・気管支に到達するかその過程6,7)を図2a−b に示 す。
歯周病原性細菌は表2に示したように嫌気性細菌が主体であるが、口腔内常在菌は免疫 機能が正常に作用している場合は外来病原菌の侵入・増殖を抑制している。免疫機能が正常 に作用しないと宿主の抵抗性が減弱し、歯周病原性細菌の嫌気性菌が優性となり、口腔常在 菌も嫌気性菌に引っ張られ免疫機能が低下し感染の拡大につながっていく(日和見感染)。
歯周病原性細菌は代表的なP. gingivalis を例にとると、粘膜表面にみられるH. influenzae な どの病原性細菌の感染を容易にする酵素(プロテーゼ)を産生する。そして歯周病原性細菌 は肺胞上皮細胞や粘膜面に唾液によって形成されるペリクルを減少させる酵素を産生し、H.

表3 誤嚥性肺炎の種々の病型
influenzae など感染菌の付着を容易にする。
また歯周病は歯周病原性細菌が歯肉線維芽細胞、 歯根膜細胞(上皮細胞、内皮細胞)をはじめ各組織に持続的に刺激を付与すると多彩なサイ トカインを放出する。
上皮結合組織細胞から産生するサイトカインはIL−1?、IL−1?、IL −6、IL−8、TNF−??がみられる8() 図3)。
歯周組織から唾液中に放出されるこれらのサ イトカインは、歯周病原性細菌と共に粘膜上皮を損傷して付着させ、感染病原体の定着と増 殖が行われる。口腔及び上気道炎の常在菌数を比較してみると、唾液中では好気性菌と嫌気 性菌はほぼ同じオーダ(107〜108対108〜109)でみられるが歯の表面では 嫌気性菌が103〜104

図2b 歯周病原性細菌の肺での定着と増殖に至る
図2a 口の中と気道、食道までのプロセス
図3 P. gingivalis が多彩なサイトカインを産生してH. influenzae などの肺炎菌の誘導因子を活 発にする。8)より引用

オーダで、また歯肉では104〜105オーダで多くみられている9)。
要介護高齢者の口腔内の日和 見病原体の調査結果10)をみると、歯垢や舌苔からのサンプルの検出率が15%を超えたものは Streptococcus sp(?−hemolysis、?−hemolysis)、Neisseria sp であり、 またPseudomonas aeruginosa 、Corynebacterium sp、Klebsiella pneumoniae、MSSA では歯垢、舌苔とはサンプルにお いては同程度の検出がみられた。
自立生活高齢者と要介護高齢者の口腔微生物の比較研究11) では、自立生活高齢者、要介護高齢者ともに好気性微生物はCandida sp、嫌気性微生物は Prevotella melaninogenica が最も高率に検出された。さらに両群ともに好気性微生物に比べ 嫌気性微生物での検出率が高くみられた。とくに義歯装着している要介護高齢者ではCandida sp の検出率が高く、自立高齢者では義歯洗浄回数が少ない者ほどCandida sp とP. melaninogenica の検出率が高くなる傾向がみられた。
いずれにしても不顕性誤嚥による主な 起因菌は口腔細菌であることが明らかになり、口腔内常在菌である微好気性菌や嫌気性菌が 関与している事が証明されてきた。

3.誤嚥性肺炎の防止・予防対策
1)歯周病原性細菌の咽頭・気道への阻止
基本的にはバイオフィルムプラークを口腔内で除去できれば問題は解決される。
市中肺炎 においてもPollock12)らは33%、Ries13)らは22%に嫌気性細菌が関与していたと いう報告があ る。
院内肺炎ではBartlett14)らは35%に嫌気性菌の関与がみられ、これらの防止には端的に プラークコントロールの必要性が提言されている。
外来患者の場合は定期的な通院も可能で あり、PTC(professional tooth cleaning)をPMTC(professional mechanical tooth cleaning) やPCTC(professional chemical tooth cleaning)で行い、嫌気性菌が口腔内に多量に存在 する場合は抗菌剤の投与も可能となる。
本人の自己管理の意志さえあれば問題なく口腔内で 歯周病原性細菌を抑制することができる。しかし高齢者や要介護高齢者は口腔を清潔にする 意志はあっても手の動きが十分ではない場合が多い。とくに脳の損傷や脳血管障害がある場 合は、自分の意志で動作ができにくい点がある。
そこで口腔ケア(oral health care)とい

QOL 維持・ADL の向上のために口腔ケアの必要性
図4 口腔保健科学の確立へ向けて

う概念が浸透してきた。
口腔ケアの目的は、障害者に限らず高齢者や介護療養者は日常生活 動作(ADL)や自立度の低下から口腔衛生状態が悪化している。
状況を改善する方法とし て口腔機能の維持・改善が求められている。
口腔機能として咀嚼・嚥下・味覚・言葉(発音) の保全は、口腔保健科学への指標となり、口腔の健康が全身への健康につながる基本である ことを認知させている(図4)。
口腔ケアの効果を次の5項目に集約してみる。
第1項目は
口腔疾患(感染症)の予防であり、
第2項目は口腔機能の維持・回復、
第3項目は全身疾患 (疾病)の予防、
第4項目は全身状態の改善とQOL の向上をはかる、
第5項目はコミュニ ケーション機能の向上、などを目的としている15)。

2)口腔ケアにみる誤嚥性肺炎の考察
_ 咽頭細菌数の推移
嫌気性菌感染症を評価する方法は、培養などの評価が不確実なため不明な点が多い。
限定された手法では、気管支鏡による保護されたブランカテーテルやBAL を利用した 定量培養がある。嫌気性菌は誤嚥性肺炎や肺膿瘍にみられる原因菌で、複数の病原体が 同一感染部から分類される。
また局所的に口腔粘膜や胃の表層に抗生剤を適用し、病原 性細菌を減少し感染を阻止する方法5)もみられている。
米国感染症ガイドラインではク リンダマイシン、?−ラクタム/?−ラクタマー阻害薬、イミペネム、メロペネムなど の投薬を推奨している。
本邦では薬剤投与によるガイドラインはみられないが、弘田16) らは老人介護施設の入居者を対象にPOHC(professional oral health care)を5ヶ月間 にわたり処置群と対照群とに分け、各群の咽頭における総菌数および口腔連鎖球菌数、 黄色ブドウ球菌数の推移について観察した。その結果、5ヶ月後には処置群は対照群に 比べて各菌数の減少が有意にみられた。
含嗽(ポビドンヨード)のみの効果とPOHC と含嗽を併用した5ヶ月間の観察17)で は、含嗽による効果よりも口腔清掃を器械的に併用した処置群では総菌数および口腔連 鎖球菌数、黄色ブドウ球菌数、カンジダ菌数の減少がみられた。
口腔含嗽剤として代表 的なクロルヘキシジングルコネートに関して、口腔含嗽群(1日2回、0.12%)とプラ セボ対照群とで行った結果、69%の抑制効果18)を示し、0.2%クロルヘキシジンゲル1 日3回貼付により73%の抑制効果などを報告19)しているが、本邦においては使用上の制 限もあり本抗菌薬について介護保健に関する資料はみられない。
このように咽頭部感染 細菌の対策は、抗生薬の投与も感染菌の減少という対症療法では効果がみられるが、中・ 長期的に感染をコントロールする場合には薬剤の併用と口腔ケアが必要であり、歯科医 師のみならず歯科衛生士の重要な業務となり得るものである。


_ 要介護者に口腔ケアが介入した事例
・特別養護老人ホームでの口腔ケア20)
全国11ヶ所の特別養護老人ホームの入所者366名を対象に専門的な口腔清掃を行っ た群(口腔ケア群184名、平均年齢82.1歳)、従来の方法を行った群(対照群182名、 平均年齢82.1歳)について2年間の追跡調査を行った。
その結果、発熱者は口腔ケア 群15%、対照群29%で有意な減少がみられた。
肺炎発症者は口腔ケア群11%、対照群 19%で有意な減少がみられた。
ADL(activating of daily living)とMMS(mini mental status)は口腔ケア群がよく維持されていた。有歯顎者、無歯顎者ともに肺炎の発症 率は口腔ケア群で低かった。
これらの結果より、口腔ケアにより有歯顎、無歯顎を問 わず誤嚥性肺炎は予防できることが見出されている。
要介護者施設における専門的に 口腔を管理する歯科医師・歯科衛生士の常駐が急務であり、その必要性を本研究は訴 えている。

・要介護高齢者における口腔日和見病原体と口腔ケアに関する保健学的研究10)
都内特別養護老人ホーム4施設157名を対象に口腔ケアを受けている要介護高齢者 (84.1±7.9歳)平均現存歯数7.6±9.2、無歯顎者36.3%の口腔日和見病原体を調べ、 口腔と身体状態との関連性を明らかにした。
対照群としては別途に従来の方法で専門 的なケアを行っていない要介護高齢者20名(平均年齢77.1±9.4歳)を対象とした。
その結果、舌苔サンプル(27種)と歯垢サンプル(24種)の両者よりPseudomonas aeruginosa 、Corynebacterium sp、Klebsilla pneumoniae およびMSSA の検出率は、口腔ケア を受けていない要介護高齢者比べて有意に低かった。
さらにCandida sp が検出され た者で無歯顎者は41.1%、有歯顎者は58.9%であった。
Candida sp は義歯を装着して いる者は非装着者に比べて検出率は高かった。しかし口腔ケアの一環として義歯を1 日1回以上洗浄している群ではCandida sp の検出率は低下していた。
ロジスティッ ク回帰分析の結果、Candida sp の歯垢サンプルと舌苔サンプルにおいては両者間に 「舌ケア」に有意な関連性が認められた。
総括として要介護者の口腔日和見病原体を 調べる際に舌苔サンプルが有用であり、検査だけでなく舌ケアの必要性が示唆してい る。口腔ケアのなかで舌ケアの管理もルーチン化することを示唆している。

・要介護施設における電動歯ブラシに効果21)
口腔ケアをプログラム化するための一環として電動歯ブラシの有用性について検討 した。
介護施設に入所している22名(平均年齢78.61±8.5歳)を対象としてスピン型 電動歯ブラシを10名に、音波震動電動歯ブラシを12名に用いて試験期間2週間、検査 部位は代表歯6歯(Ramford の対象歯)を対象に行った。
検査項目はプラークの付 着、歯肉の炎症、歯周ポケットの深さ、歯肉からの出血を測定し、アンケートは介護 士に対して電動歯ブラシ試用期間における使用法や問題点について指摘を聴取した。
その結果をみると、2週間の試験期間では歯肉の状態の著しい改善は認められなかっ た(表4)。
原因としては期間が短期間であったこと、残根や齲蝕が多発し磨きにく いこと、歯石が沈着した状態であったこと、食物残渣が貯留し検査値に誤差が生じや すいこと、などが挙げられている。
ただし今回の介入試験で、介護職員の口腔ケアに 対する意識が高まり、全体的に食渣のある入所者が減少し、介護職員から入所者の口 臭が減ったことが報告されている。
電動歯ブラシに関しては、入所者と介護者との両 者で使い慣れないこともあり、自立で歯磨きをしていた入所者も自立して磨くことが 出来ないという問題点も提供された。電動歯ブラシを使用すると、逆に介護者の負担 が かったことが原因であり、使用器具の問題ではないと考えられる。
従って要介護施設 に新しい電動歯ブラシなどを導入する以前の問題として、口腔ケアの実践をどのよう に行うかは時間がかかり忍耐を要する問題であるが、今後の課題として提起するもの である。電動歯ブラシは使用に慣れることができれば効率的にプラーク除去できるた め、今後、電動歯ブラシを一つの選択肢として単に「歯磨きに時間がかかる」という ことではなく、口腔内の健康を保つことが全身の健康につながるという口腔ケアの方 法を啓蒙していく必要があると考えている。


_ 口腔ケアのガイドラインを目指して
口腔ケアのマニュアルは多くの教本が出回っているが、一本化して「誰もが」「どこ でも」一般的に使用できる指針が必要とされている。
そのなかで一番欠落している部分 は、口腔ケアを行う際の基準値の設定である。
方法論は個人差によって画一的に設定で きないが、口腔内嫌気性菌をどの程度の割合で押さえるか、専門的介入は必須事項である。
表4 電動歯ブラシの使用前・後の推移 因みに厚生労働省科学研究費でこれまでに唾液中に含まれている歯周病原性細菌や 酵素を定量化し、健常者と歯周疾患者との差異を比較検討してきた。
その結果、スクリー ニングとしての有用性と効率性を報告してきているが、口腔ケアについても自立者、要 介護者などの歯周病原性細菌、酵素などのマーカーを策定し、検査後に口腔ケアの方針 を立案することが必要と思われる。
我々の研究班が現在詳細な解析を続行中であるが、 健診・歯周病の歯周基本治療・歯周外科治療終了時に検討した基準値は表5のごとくで ある。

まとめ
生活習慣病のなかで、歯周病の位置づけと全身との関わりを肺炎、とくに誤嚥性肺炎につ いて論じてきたが、口腔を起源とした全身疾患の相互作用は、今後さらなるエビデンスのも とに蓄積されていくものと思われる。
誤嚥性肺炎は寝たきりの老人に多くみられるが、脳・ 血管障害や骨折などによる非運動性疾患とも云われ、ADL の活性とともに日常生活の中で 適度な運動、とくに「歩く」ことと「口腔清掃」が基本である。
歯科は、歯という概念にと らわれ歯のみの治療という時代は過ぎ去り、口腔という消化器系前門という大きな立場から 予防・治療に対処するよう方向づけられている。
これは、少子高齢化という人口動態の変化 を含めて、疾病構造の推移に伴い今後の口腔医療の在り方を模索する重要な課題を提起した ものと思われる。
とくに要介護者数は、平均寿命=健康寿命にするためには口腔ケアは重要 な課題で、歯科医師・歯科衛生士の導入が死亡率の軽減、ADL の活性化につながり、経済 的にも損失が軽減され、社会的にも国民の多くの方々から共感と支持が得られるものと思わ れる。
表5 唾液中成分の生化学的および歯周病原性細菌の基準値










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