後期高齢者医療制度(長寿医療制度)問題点




保団連の政策解説
後期高齢者医療制度のねらい
07年2月25日

 『高齢者の医療の確保に関する法律』をはじめとした「医療改革法」では、 公的保険給付範囲を削減・縮小することとあわせて、都道府県が「医療費適正化計画」を策定し、 5年毎に結果を検証していくことが義務化された。
数値目標の達成が困難な都道府県に対しては、厚生労働大臣の指示で、 その県だけに適用される診療報酬を導入するなど、 ペナルティとなりかねない仕組みも導入された。
 「医療費適正化」とは、都道府県を国の出先機関とし、 「いかに患者に保険医療を使わせないか」を競争させることであろう。

 「医療費適正化」のターゲットにされている後期高齢者(原則75歳以上) の医療保険とその運営にあたる都道府県「後期高齢者医療広域連合」の問題点を検証する。

   保険料の新たな負担
 問題点の第1は、
75歳以上の後期高齢者は、給与所得者の扶養家族で今は負担ゼロの方に 新たに保険料負担が発生することだ。
 政府が示している平均的厚生老齢年金受給者の場合の保険料は、 月額6,200円で、年間74,400円の負担増となり、 2ヵ月ごとに介護保険料と合わせて2万円以上が年金から天引きされていく( 月額15,000円以上の年金受給者の、老齢年金、遺族年金、障害年金から天引き)。
 これまで扶養家族となっていたために保険料負担がゼロの人 (厚生労働省の推計では約200万人)には、 激変緩和措置として2年間は半額になる措置が取られることになっているが、 新たな負担には変わりない。
 また、現役でサラリーマンとして働いている人が75歳になれば、 その扶養家族は新たに国民健康保険に加入しなければならず、 国民健康保険料が丸まる負担増となる。

現行制度にない厳しい資格証明書の発行
第2に 、
保険料を「年金天引き」ではなく「現金で納める」人 (政府の試算では2割と見込まれている)にとっては、 保険料を滞納すれば「保険証」から「資格証明書」に切り替えられ、 「保険証」を取り上げられる。
 さらに、特別な事情なしに納付期限から1年6ヶ月間保険料を滞納すれば、 保険給付の一時差し止めの制裁措置もある。
 年金収入の少ない低所得者への厳しいペナルティだ。
現行制度では、高齢者に対しては資格証明書発行の対象から外してきたことと比較すると、 問答無用な冷厳なシステムとなっている。

給付を切り縮める『差別医療』の導入
 第3に、
医療機関に支払われる診療報酬は、他の医療保険と別建ての「包括定額制」とし、 「後期高齢者の心身の特性に相応しい診療報酬体系」を名目に、 診療報酬を引き下げ、受けられる医療に制限を設ける方向を打ち出している。
  厚生労働省から示されているのは、主な疾患や治療方法ごとに、 通院と入院とも包括定額制(例えば、高血圧症の外来での管理は検査、 注射、投薬などをすべて含めて一カ月○○○円限りと決めてしまう方法) の診療報酬を導入する方向である。
国保中央会では昨年12月、後期高齢者を対象とした「かかりつけ医」の報酬体系を導入し、 「登録された後期高齢者の人数に応じた定額払い報酬」とし、 「医療機関に対するフリーアクセス(『いつでも、誰でも、どこへでも』)の中の 『どこへでも』をある程度制限」することを提言した。
後期高齢者に対する医療内容の劣悪化と医療差別を招く恐れがある。

保険料自動引き上げの仕組み
 第4に、
後期高齢者が増え、また医療給付費が増えれば、 「保険料値上げ」か「医療給付内容の劣悪化」か、 というどちらをとっても高齢者は「痛み」しか選択できない、 あるいはその両方を促進する仕組みになっている。
 2年ごとに保険料の見直しが義務付けられ、 各広域連合の医療給付費の総額をベースにして、 その10%は保険料を財源にする仕組みとなっている。
さらに後期高齢者の人数が増えるのに応じてこの負担割合も引きあがる仕組みだ。
 これらのことが受診抑制につながることにもなり、 高齢者のいのちと健康に重大な影響をもたらすことが懸念される。

独自の保険料減免が困難に
 第5に、
保険料は、「後期高齢者医療広域連合」の条例で決めていくことになるが、 関係市町の負担金、事業収入、国及び県の支出金、 後期高齢者交付金からなる運営財源はあるものの、 一般財源を持たない「広域連合」では、独自の保険料減免などの措置が困難になってくる。
 これまで、地域の医療体制や被保険者の健康状態の違いが反映した自治体ごと の医療保険制度であったために、保険料水準にはおのずから違いがあったが、 県内統一の保険料になれば、大都市部と山間部での医療体制の大きな相違等で、 新たな医療格差が発生する恐れが強くなる。

当事者の声が直接届かない
 第6に、
広域連合議員の定数は制限されており、半数以上の市町から議員を出すことができない。 しかも、その議員は「各市町の長及び議会の議員」のうちから選ばれることとなっており、 当事者である後期高齢者の意見を、直接的に反映できる仕組みとしては不十分なものになっている。
 住民との関係が遠くなる一方、国には「助言」の名をかりた介入や、 「財政調整交付金」を使った誘導など大きな指導権限を与えている。
このままでは、広域連合が、国いいなりの “保険料取立て・給付抑制”の出先機関になる恐れがある。
広域連合の改善を  国にこれらの問題点を是正していくよう強く求めていく必要があるとともに、 当面、広域連合の規約に次の3点を盛り込んで是正が必要ではないか。
@広域連合議会で重要な条例案の審議を行う場合、高齢者等から直接意見聴取する機会、 例えば公聴会などを実施し、広域連合議員にはそこに出席することを義務付けること。 また、被保険者の声を直接聴取する恒常的な機関として、 市町の国民健康保険運営協議会に相当する「協議会」の設置について、積極的に検討すること。
A一定の基準を設けて、業務報告や財務報告等の各市町議会への報告を義務付けること。
B住民に対する情報公開の徹底を義務付けること。
 地方自治法により自治体として扱われる「広域連合」に対して、 住民による請願・陳情権や条例制定の直接請求権は保障されている。
今後は、住民の声と広域連合議会での審議を結びつけて、 抜本的な是正を図っていくことが必要である。


後期高齢者医療制度、負担と給付はどうなるか
08年4月3日

  4月1日から後期高齢者医療制度が実施された。
同制度をめぐっては、2月28日に野党4党が「後期高齢者医療制度廃止法案」 を提出したほか、3割近い自治体(546自治体)で見直しを求める決議が採択されている。
実施目前になるほど怒りがわき上がる同制度。なぜ実施されなければならないのか、 厚生労働省のねらい、問題点を探った。

ねらいは医療費削減
なぜ75歳以上の人のみを集めた制度として独立させたのか。
そのねらいは、1947〜1951年生まれの“団塊の世代”が高齢化のピークを迎える2025年に向けて、 医療給付費をいかにして削るかにある。
厚生労働省は25年度の医療給付費を、56兆円から48兆円に8兆円削減し、 そのうち5兆円を後期高齢者医療で削ろうとしている。

4月から法律と制度が変わり、
「老人保健法による老人保健制度」から、 「高齢者の医療の確保に関する法律による後期高齢者医療制度」となった。
老人保健法第1条の「目的」にあった「健康の保持」が削られ、 代わりに「医療費の適正化の推進」の文言が加わるなど、法律の目的が大きく変わった。

指摘される多くの問題点
○運営主体
運営主体と財政責任は、現在の市町村から、 都道府県ごとに全市町村が加入して設置された「後期高齢者医療広域連合」 に変更された。 地方自治法に基づく特別自治体で、広域連合長と議員を選出したが、 独自の財源を持たず、議会も年間で数日間程度しか開かれていないのが現状だ。
○医療給付の財源
医療給付に要する財源は、後期高齢者が納める保険料が1割、 健康保険や国民健康保険からの支援金が約4割、国と地方自治体の公費が約5割―という負担割合が 法律で決められた。
○保険料は右肩上がり
高齢者の人口が増えていくと、後期高齢者の保険料で賄う割合が増えていくことになる。
厚労省の試算では、2015年度に保険料で賄う割合は、 2008年度の10%から0.8ポイント増加して10.8%になる。
今後、わが国の高齢化は避けられないので、保険料は右肩上がりで上昇することになる。
後期高齢者の支払能力に応じた負担とはなっていないため、 2年ごとに行う改定で、保険料の引き上げが困難になれば、医療給付の制限に向かわざるを得ない。 事実上のキャップがかぶさる効果が出る。
○保険料は年金から天引き
全員がもれなく亡くなるまで保険料を納めることになる。
保険料の減額措置はあるが、免除することはないので、必ず保険料を払い続けることになる。
また、受給する年金が毎月1万5千円、年間で18万円以上の人は、 機械的に年金から天引きされる。
高齢者の生活を保障すべき年金から保険料を一律に天引きすることは、 生計費は非課税という原則に抵触するものである。
○保険証の取り上げも
窓口で保険料を納める場合、保険料の滞納が4カ月続けば「短期保険証」を発行し、 1年を経過しても「特別な事情」が認められないときは、 保険証の返還を求め、10割患者負担となる「資格証明書」を発行する。
さらに、1年6カ月たっても滞納が続くと、 「保険給付の一時差し止め」まで行うことを法律で決めた。
老人保健法では「資格証明書」の発行は実施していなかったことと比べると、 あまりにも苛酷な仕打ちだ。
少なくない後期高齢者が、年々高くなる保険料を、介護保険料とあわせて支払うことになる。
○新たな矛盾が
75歳の健保本人に、74歳以下の扶養家族がいると、 その家族は会社の健康保険を脱退しなくてはならない。
そして、新たに国保に加入すれば、国保料を納めることになり、 保険料が丸々負担増となる。
また、保険料は個人単位で支払うが、保険料の軽減措置の判定は、 世帯単位とされており、後期高齢者本人の収入に、 世帯主などの所得が合算されてしまう。
このため、本人の収入だけならば、保険料の軽減措置が受けられるのに、 合算によって軽減が受けられないケースが出てくる。
○健診は努力義務に後退
老人保健法による基本健診は廃止され、後期高齢者の健診の実施は、 各広域連合の努力義務とされた。
厚労省は、血圧やコレステロールを下げる薬、 インスリン注射または血糖を下げる薬を使用しているときは、 健診の対象者から除外するよう各広域連合に示した。 
徳島県の広域連合では、過去1年間に医療機関にかかった人まで健診の対象者から除いたため、 健診が受けられる後期高齢者は全体のわずか3%強に限られる。
○支援金と保険者へのペナルティ
健康保険や国民健康保険の加入者数に応じて支援金の額が決まる。
厚労省の試算では、加入者1人当たりにならすと約4万円になる。 扶養家族である赤ん坊も1人が4万円を納める勘定になる。
厚労省は、この支援金を最大で10%加算するペナルティと、 特定健診・特定保健指導の実績を連動させる仕組みを導入した。
那覇市国保では、10%と仮定した加算額が4億6千万円になると試算している。
○国保料の引き上げや都道府県の負担増
保険料収納率が高い後期高齢者の脱退、後期高齢者医療への支援金、 特定健診など保健事業費等の影響で、国保料を引き上げる動きが全国的に広がっている。
国保料を据え置く市町村でも、繰越金や基金の取り崩しで対応しているのが実情だ。
また、都道府県の負担も老人保健制度に比べて増加する見通しで、県財政を圧迫することになる。
診療報酬改定への影響
○「後期高齢者診療料」の導入で医療費抑制
外来医療では、慢性疾患を有する後期高齢者を対象として、 後期高齢者診療料が導入された。
対象となる疾患のうち「主病」を診る1人の医師がこの診療料を算定できる。
「主病は1つ」という考え方が持ち込まれた。
厚労省のねらいは、1人の主治医に、複数の疾患を同時に持つ後期高齢者の患者情報を集約し、 継続的・総合的な「管理」をさせることで、 なるべく複数の医療機関を受診させないようにして、医療費を抑制していくことだ。
また、医学管理や基本的な検査、画像診断、処置(投薬や注射などを除く)は、 包括点数(月1回600点)となった。
定額のため、必要な治療を何回行っても診療報酬は変わらない。
手厚い治療をするほど、医療機関の持ち出しになる。
高齢者の生活を支えるために、主治医を位置づけ、総合的な診療を行うことは重要だが、 「後期高齢者診療料」では、 高齢者の心身を総合的に診るという考えが歪められてしまうことが危惧される。
厚労省は、「今すぐに登録制度を導入するのは、時期としては早い」 (『国保実務』第2579号)としており、 後期高齢者の主治医の登録制導入が再燃することも十分に考えられる。
○入院から在宅、介護への誘導
厚労省は、患者の病態などに応じて、入院・在宅を選べるようにするのではなく、 「入院から在宅へ」「医療から介護へ移るよう」に、 診療報酬や介護報酬を通じて促していく計画だ。
今次改定で、一般病棟に90日を超えて入院する後期高齢者のうち、 「脳卒中の後遺症・認知症」が原因の重度障害者等の患者は、 低い定額点数になり、平均在院日数の計算対象となった。
また、特殊疾患病棟、障害者施設等には、 厚生労働大臣が定める状態の患者を一定割合入院させなければならないが、 「脳卒中の後遺症と認知症」が原因の重度障害者等の患者は、対象から外された。
10月から実施予定だが、このままでは、 障害を持つ入院患者が退院を余儀なくされることが危惧される。
高齢者の長期入院が多い療養病床の入院基本料も、全体的に引き下げられた。
一方で、5月の介護報酬改定では、療養病床から「転換型」の老健施設を創設した。
現在の老健施設より高い介護報酬とし、施設内で看取ったときの 「ターミナルケア加算」などが算定できる。
 後期高齢者医療制度に伴った今回の改定では、 75歳を境にしてあからさまな差異はつけられなかったが、 将来的に国民1人1人に対する公的支出を削減する 「医療費適正化」政策のための手段として、 2010年、2012年に予定されている診療報酬改定を通じて、 拡大されていくことが懸念される。
患者負担の軽減と医療費総枠を増やす政策への転換が強く求められている。










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