口腔ケア―研究その1




「特別養護老人ホームにおける口腔管理‐普遍的管理システムを求めて」
平田米里(石川県保険医協会)
共同研究 浦崎裕之

○○○口腔ケアプロジェクト  そのコンセプトとかかわり
特別養護老人ホームにおける口腔管理(普遍的管理システムを求めて)
 結果的に肉親の介護を在宅で受ける事のできなくなった、ほとんどが痴呆の集団において、口腔衛生状態を長期的視野にたち、良好に効果的に、できれば費用の負担が小さくてすむなにか良い方法はないものか探る事を目的に以下の試みをしましたので報告します。

○○園とのかかわりは歯科往診の依頼からでした。近くの先生が歯科往診に消極的なので私に依頼が回ってきた様です。(私の医院からは車で40分程度の距離にあります。)
最初、ごく一般的な歯科往診治療をしていたのですが、その内、「入園者のなかで口臭がひどい人が目立つのだが、何とかならないものか」という要望が一人の看護婦さんから出ました。(たった一人でも、意識が高く、行動力のある人の存在はいつも大きい)
「口臭」の原因、健康との関与、対策などをお話するうちに、口腔ケアプロジェクトなるものが、○○園全体として受け入れられ、実行できそうな感触を得るに至りました。

目的 
○○園に対する、『提案書』の中に触れられていますが、口腔ケアの改善により、入園者の健康増進、疾病予防に結びつけることで、健康に貢献すること。そして、その方法、結果が良ければ、そのシステムを普遍化し、公表するとともに、他の同じような問題意識を持っている施設等と情報交換し、更に良いシステムに高めていくこと。

1)事前準備  
施設長、事務長、看護(婦)士、寮母、事務職員そして歯科医師を含めた協力体制を確立するため、各自の役割、目的を明瞭にすること等を基本にして、意思の統一を図る。
(@)施設長、事務長、看護(婦)士との話し合い(2000年2月24日
口腔ケアの内容、目的、予想される効果、役割分担、費用等、よい結果を出すためには何が必要か提案書を提示し打ち合わせをした。
(A)介護担当者(寮母さん)への口腔ケアに対する啓蒙と口腔ケアの実習を行う(3月2、9、16日の3日間で26人に対し実施)
治療を除いたケアの中心は寮母さん達だから、そのレベルアップは必須である。
費用が必要になることも予想されるので、入園者の家族に対する了解を得ること(これは後でアンケートを取り、了解を得ることとなった)。

2)ベースラインデータとなる基礎資料の収集(3月17日と27日に施設に勤務する看護婦さん一人に実施を依頼、歯科医でなくては調査できないよな項目はできるだけ避けた)
○○園の一番の希望が口臭の解決であったが、その他の項目の調査もお願いした。
個人調査票‐1。当然の事ながら、口臭に関しては後日、再調査することになるこ とを了承していただいた。

3)歯科検診による状況把握(2000年3月30日と4月6日)
この調査は歯科医師2人で実施した。特別養護老人ホームの対象者は約80名。
目的)歯科治療対象者のリストアップ、要口腔ケア者のリストアップ
口腔内診査(歯牙所見、義歯の汚れ、舌苔など)の結果をもとに大門園にリスト者を提出、協力を願った
@口腔ケアの必要と思われる対象者 42名 うち、早く開始したほうが良いと思われるもの13名
A歯科治療の必要と思われる対象者 26名 うち、急を要すると思われるもの 9名

4)計画の実行
口腔ケアのうち、治療に関することはスクリーニングにより優先順位をつけ、歯科医師が順次対処した。口腔清掃は寮母さんに指導した事がどこまでできるかの、結果待ちとなった。

5)計画の見なおし 変更
寮母さんだけでは、口腔ケアに対する専門性の要求度、労働環境などで限界があり、計画を変更。口腔ケアのより専門的知識、方法を身につけた歯科衛生士を介入させることにした。此れは予測予定していた事でもあった。

6)歯科衛生士による口腔ケアの実施 
2000年9月より、事前のリストアップされた方を中心に、現場のヘルパーの要望などをとり入れて、特に困難と思われる10数名を対象に、歯科衛生士による口腔ケアを開始した。
当初、歯科衛生士一人で、12、13名を対象としたが、現在では、1W2回のグループ、1W−1回、2W−1回、1M−1回、2M−1回の各グループに大きく分けて実施し、経過観察者も含めて対象者は約50人となっている。

7)計画、結果の評価の方法について
評価に関しては、データの正確性を追求すると非常に難しくなる。
私達は、ひとつの指標として口臭を選んだ(現場の要望でもある)。口臭を成果の判断基準に使えるかという問題はあるものの、私達の調査表を作成する段階で、他に適当な指標となるものが見当たらない様に思えたからだ。簡単、有効、確実、再現性の高い方法があれば良いのだが、大半が痴呆や意思の疎通の困難な被験者を対象にした指標は、今をもっても見当たらない。大学の予防歯科学教室に相談しても、ピンと来る指標がなかった。そこで、保険医協会基準としての「口腔ケアに対する効果判定指標」の作成を提案します、検討をお願いしたい。

8)口腔ケアプロジェクト結果報告
2000年3月から2001年7月までの、石川県のある特別養護老人ホームにおける実践例を報告する。データの一部を後半部に提示。

まとめ
歯科医師2人と在宅歯科衛生士1人が80人規模の特別養護老人ホームの口腔を管理するには、初期においては、歯科医師は1週間に1回、2時間程度。おおよそ半年後には、月に2回、各3時間、合計6時間程度の関与があればよいと思われる(管理対象者を毎月一回は診る必要があるための時間が大部分)。歯科衛生士は1W2度、各2〜3時間程度の関与で可能と思われる。
費用は医療保険を利用、負担金は一人最大で、毎月3200円。

附)このプロジェクトにおける その他の狙い
@寮母さんたちの口腔ケアに対する教育効果を見る
Aこのプロジェクト、特徴をアピールすることで施設職員全体の活性化につなげる
B口腔ケアはどの程度QOLに寄与しているか調査する。
 病院、施設、在宅、年齢、疾患等によりどの程度の違いがあるのか不明
C他の施設にもこの取り組みを知らせ、普及させたい
D施設や在宅でも口腔ケアが普通に受けられる事は国民の権利と広く認識させたい
Eいろいろなデータを集めるために、保団連に全国規模での取り組みを要請したい

(参考)大門園データ  
(1)ベースラインデータ 3月17日と27日実施
この基礎資料は一人の看護婦に調査票を記入していただいた。
歯科医師でなくても記入可能な項目を選んである。(以下は調査項目)
対象者――調査人数 72名(全員ではなかった)
男女比 年齢分布 入園年数 口臭 肺炎の経験 口腔内の炎症 下痢など 食事の形態 入れ歯を使用して食事をしているか 入れ歯の清掃は誰がするのか 口腔内の状況 BDR指標

(2)口腔内診査(2000年3月30日と4月6日に2人の歯科医師が実施)
口腔内の歯牙所見 プラーク、歯石 義歯の状態、義歯の清潔度 舌苔の有無
これらを調べることで歯科治療の必要性や口腔清掃指導の必要性のある対象者をスクリーニングした。

(3)2回目の口臭調査(2001年2月4日実施)
今回は口臭のみ
前回の調査では調査項目(@)「部屋に口臭様の臭いがするか」においてはほとんど(4人)プラスの人がいなかったのであえて調査しなかった。調べなくてもほとんどゼロという報告を受けていた。
(B)の「口を開けると口臭がする」については、口を閉じられない、はじめから口を開いている人が要口腔ケア対象者に多いため(A)と重なることがあり、また、臭いの程度の基準があいまいになりやすいためか、1回目、2回目でばらつきが出たようだ。ひどくする人はいなくなった。
(A)の「口元に近づくと臭いがする」はベースライン時点で16人(14)プラスだったのだが、2回目ではゼロとなった。(1人調査もれ、1人死亡したため、確認できたのは14人だった)。歯科衛生士が担当している人ばかりでなく、寮母さんのケアだけでも改善されていた。

(4)3回目の口臭調査(2001年7月上旬実施)
3人の調査できなかった人を除いて、そして、一人だけ、(A)、(B)とも悪化した人を除けば、全員(A)の項目はゼロに改善した。
(B)の項目は少し口臭がするのまま変化なしが6人。残りの7人はゼロとなった。

最後に
プロジェクト開始より2年後には、もう一度全調査をして、結果を評価する予定です。








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