口腔ケアの実際―誰に何を―どのレベルで




『口腔ケアの性格』    目的は口腔の長期管理

口腔ケア(口腔管理)の特徴は単発的性格を有する一般的歯科治療行為とは異なり、効果的方法を維持しつづけため良質のマンパワーの長期確保が要求される事がその大きな特徴です。また、どんなに理論的に優れた方法があっても、それが実施者や要介護者、家族に大きな負担を強いるものではでは長続きしません。その為には、誰が誰にどんな口腔ケアを指導したり、実施したりすれば効果的で長期間のケアが可能かを計画する事が最大のポイントで、これは歯科医の仕事です。もちろん、口腔清掃よりも義歯の修理や、抜歯が優先すると判断する事もあると思います。それも歯科医師の大切なマネージメントの一つです。開始のときばかりでなく、その後の見直しの為にも長期的な歯科医師の関与が必要で、家族やヘルパー、訪問看護ステーション等から、様々の情報を得ることが大切です。

『誰が誰に』
在宅ばかりでなく、病院施設等においても、口腔ケア指導を行なうに際しては、大きく3に分けられると思います。
  • @ 要介護者本人に指導する場合。
  •  
  • A 要介護者だけでは不充分で、介護者も指導の対象にする必要がある場合  
  • B 要介護者及び介護者では口腔ケアが充分に期待できなく、技術的にも困難な場合(歯科衛生士(歯科医師)が要介護者に直接ケアをする場合)。
(A)在宅における口腔ケア(個人の口腔管理)
@要介護者本人に指導する場合
本人が軽度の障害にとどまっていて、口腔清掃が充分できる能力が備わっている場合は、要介護者とケアする人に的確な知識を提供し、何度か口腔清掃法等を訪問指導する事が必要とされるだけで、通常歯科診療の指導やグッズに少し工夫を凝らすだけで差し支えなさそうです。本来はAに相当する場合でも、介護者がいない為やむを得ず本人自らが実施するしかない場合は、使用する用具、備品に本人が使いやすいように配慮が必要です。実際にさまざまな改良された市販のグッズを使用したり、それをもっと改良工夫したりして指導されています。

A要介護者だけでは不充分で、介護者も指導の対象にする必要がある場合
要介護者自らが充分な口腔ケアを行なう事ができず、日常的に介護をしている方にケアの必要性を啓蒙し、その方法を指導する場合です。いつもそばにいる人が口腔ケアに熟練する事がどうしても必要で、歯科医師などが要介護者をモデルにして、介護者に指導する事になります。実際に最も多い事例で、在宅の軽中等度の脳血管障害者や痴呆者の多くがこの例だと思われます。この場合でも可及的に本人にケアを指導し、その後介護者が実施する事になるのは言うまでもありません。

B要介護者及び介護者では口腔ケアが充分に期待できなく技術的に困難な場合
要介護者の状況が大きく関係しますが、介護する人が高齢で視力や体力が低下していたり、一人暮しの為、ケア全般を外部委託されていたりする場合などにおいても必要が生まれてきます。一度きりの訪問口腔ケアで終わる事は考えづらく、歯科医師や歯科衛生士がその専門性を生かし、継続的に長期にわたって関与する事になります。
Aになるか、Bになるか究極の違いは、誤嚥防止のための処置が充分に取れるかと言っても良いようです。もっと言えば、吸引機(バキューム)を準備、使用できるかどうかです。しかし実際には、バキュームの要不用をそれほど大げさに考えなくてもよいようで、85歳の痴呆のご主人を80歳の妻が介護している場合を具体例として考えてみればわかります。

妻は視力が低下し、手付きもぎこちなく歯科衛生士が何回かブラッシング法などを指導しても大臼歯部隣接面舌側面などはどうしてもうまく出来なく、症状が改善しないかも知れません。その場合、週に2度ほど歯科衛生士が訪問してケアをする事が有効と判断されればBとなります。しかしながら、現実的にはこのような場合、訪問看護ステーションの看護婦さん、民間ヘルパーさんが行なっている事例が増加しているようで、今後は歯科の積極的関与が望まれます。

 (B)特別養護老人ホーム等における口腔ケア(集団の口腔管理)
在宅においてと同様、本人に指導ができればまだ幸運です。痴呆者などが多い特養における場合は、多くは本人に指導するというより、歯科医、歯科衛生士が看護婦、寮母さんに、ケア方法を指導する事が中心になります。看護婦、寮母さんは労働環境的に充分なケアする時間を取れない事もありますが、たいていは入所者の特徴を一人一人良く把握していて、口腔ケアの大切さやその方法を理解すればある程度確実に実施できます。
問題は、施設全体としていかに取り組むかをマネージメントすることが効果を生むかどうかの分岐点になります。ポイントは

@ 最初に、歯科医師が歯科検診を行なう事により集団全体の状況を把握し、口腔ケアや歯科治療にたいする優先順位の決定を行なう事。
A 寮母、看護婦さん等に対して口腔ケアの大切さを理解していただき、その方法を習得してもらう事。
B歯科衛生士が訪問口腔ケアを実施したほうが有効である対象者をスクリーニングする事。
C結果を定期的に施設に対して報告する事
施設であれ在宅であれ、寝たきりと言っても病状が軽い人の口腔ケアは、日常診療における指導とほぼ同じで問題は少ないでしょう。問題になるのは、痴呆などの意識レベルに問題のある人、何らかの障害によりうがいのできない人、意識して開口を維持する事の困難な人などです。これらを重複して持つ人はもっと困難です。
具体的例 をあげてみます。

(@)脳血管疾患(寝たきりになる代表的疾患)
特養等でよく遭遇するケースとして、多発性の脳梗塞により寝たきりになった方がいます。意識がほとんどなく、うがいや嚥下も当然できなく、胃瘻等の経管栄養になっています(こんな場合は可及的に2人でケアを行ない、必要あればバキュームの使用を考える事が多いようです)。口は軽度の半開き状態、口腔乾燥を伴うことが多いようで、口を開けさせようとするといやがるそぶりがみられる事が多いようです。こんな時は途方にくれます。

先ず、座位が取れません。教科書的には患側を上にだが、左右とも患側になっている事が多い。残存歯が多くて充分に開口させてもらえない。舌側が全く見えない。仕方がないから口角に指をそっと入れ、唇側だけガーゼでふき取る事から始める。口唇の乾燥ひび割れなどがあれば、水で湿らせ徐々に軟化、緊張を取る。乾燥症が激しい時はチョットした事で粘膜が傷つきやすく注意が必要です。余裕があれば、ブラシを使う。歯間ブラシも有効です。

舌側歯頚部にはガーゼを置き、出血などを吸収すると同時に菌の拡散を最小限に食い止める努力をする。うまく指2本(人差し指が下顎歯に、親指が上顎歯に)に差し込まれたら、人間開口器として口を少しずつ大きく開けさせる事もできます。そうなれば、もう片方の手で臼歯部や舌側もブラッシングが可能になります。もう一人補助者がいれば、ライトや、バキュ−ウムも同時に活用できます。安心も高まります。バイトブロック、開口器ももちろん有効です。しかし、噛む力の変化を指で感じる事は大切な情報です。お勧めします。

(A)以下は口腔の代表的病態
(イ)口腔乾燥を併発している事も多いようです。乾燥症には、口唇にオリーブオイル、ワゼリンを塗る。口腔粘膜、舌には、人工唾液サリベート、レモン水、2%重曹水などを、応急的に、噴霧する。また、痰などがこびりついている時は、無理にはがそうとしないで、前記のものや、水などで少しずつ軟化して、ゆっくり取る。数日に分けて取る事も珍しくはない。勿論、環境の改善や唾液液分泌を促進させるよう努める事はいうまでもいない。

(ロ)舌苔に関しては、白く見えるものは糸状乳頭が長く伸びたものですから、無理に擦り取る事は細胞を削り取る事になりますから、その間に隠れている雑菌をかき出すイメージで良い。特別な器具は必要なく、歯ブラシで充分対処できます。口腔の衛生状態が改善されれば、日々消えていくはずです。それでも改善しない時は全身の原因(消化管の疾患など)を疑うべきです。

(ハ)歯肉からの出血に関しては、抗凝固剤や抗血小板剤などを先ず、問診でチェックしておく事は当然です。易出血性の時は歯ブラシの毛はソフトから始めますが、出血が止まらないときは、ボスミンを含ませた綿などで数分圧迫します。医科の主治医との連携、情報交換も必須です。特養の寮母さんたちも途方にくれたままで、口腔ケアがほとんど放置されたままということもあるようです。こんな時こそ歯科医師や歯科衛生士の継続的口腔ケアが威力を発揮するケースと言えます。

現場を数多く経験する事で、その人なりの良い方法が生まれてきます。必要は発明の母と言う事でしょうか。








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