社会保障・税一体「改革」素案批判

2012年1月26

石川県社会保障推進協議会

寺越博之

はじめに

 201216日政府・与党社会保障改革本部で「社会保障・税一体改革素案」(以下「一体改革素案」」という。)が決定され、閣議報告された。「一体改革素案」は、国民を社会保障制度・国家財政を破綻させないために消費税増税、社会保障改革が避けられないと思いこませるためのものである。

 「一体改革素案」が実施されるならば、この国の社会保障制度と財政はますます悪化し、取り返しがつかないものになる。「一体改革素案」の内容を多くの国民に知らせて、「消費税増税ノー」「社会保障の改悪ノー」の一致点での協力・共同を重層的に広げて、「一体改革素案」を撤回させることが私たちに今求められている。その協力・共同を広げていくために、社会保障と税の「一体改革素案」の問題点を明らかにしたい。

T.社会保障・税一体「改革」素案の概要

1.社会保障・税一体改革素案の工程別実施予定事項

 社会保障・税一体改革素案の概略を工程別に並べると下記の通りになる。

2012年度に実施予定項目>

(1)消費税増税法案を通常国会に提出する。

・消費税増税の実施時期については2014 41日より8%へ、2015 10 1日より10%へ。

(2)子ども・子育て新システム化関連法案を通常国会に提出する。

※児童福祉を介護保険と同じ仕組みにするもの、子ども達の未来は不安がいっぱい。

(3)消費税引上げ後に消費税財源による基礎年金の国庫負担2分の1を恒久化する法案を通常国会に提出する。

1997年橋本内閣によって消費税が3%〜5%に引き上げられた時、恒久減税として定率減税が導入された。そして自公政権時に、基礎年金の国庫負担引き上げ財源にするためにと定率減税は廃止された(大企業の定率減税はそのまま存続)。今度は同じ理由で消費税を充てるとしている。

(4)物価スライド特例分の解消年金関連法案を通常国会に提出する。201210月から実施する。

2004年年金国会の時、保険料を上げながら、物価が下がったら0.9%づつ給付額を減らしていく年金改悪法が成立し現在進行中。民主党政権になって3年間物価下がったのに給付額を下げなかった。だから貰いすぎ分2.5%分を3年間で年金額を下げようとするもの。

(5)後期高齢者医療制度廃止(名前を変えるだけ)に向けた見直しのための法案を通常国会に提出する。

※新しい高齢者医療制度は、一旦被保険者を国保に戻すが、国保は74歳までの国保と75歳以上の国保の別建てになる。後期高齢者だけを囲い込んで、保険料を上げますか、医療費を下げますかと閻魔様が選択を迫る仕組みは同じ。

(6)診療報酬・介護報酬改定ダブル改訂実施(20124月)(ダブル実質マイナス改定)

(7)障害者が地域社会で安心して暮らすための総合的な障害者施策の充実については、通常国会に法案を提出する。

※障害ある人たちが頑張って障害者自立支援法は違憲的な立法であると国に認めさせた。20138月までに障害者自立支援法を廃止し、総合福祉法案を成立させ実施すると約束がされている。しかし、その約束は守られる保障は乏しい。政府は障害者自立支援法の手直しで乗り切ろうとしているのではないか。

(8)衆議院定数80議席を削減する法案を通常国会に提出する。

 

<今年の通常国会への法案提出を検討している事項>

◆市町村国保の都道府県単位化(国保料がどんどんあがります)

◆高所得者の年金給付の見直し(引き下げ)

◆短時間労働者に対する厚生年金・被用者保険の適用拡大

◆国保組合の国庫補助の削減

◆介護保険制度の見直し(軽度者の利用料2割化、ケアプランの有料化、等々)

2013年度実施予定事項>

70 歳以上75 歳未満の方の患者負担の2割化

■新しい年金制度の創設(民主党の最低保障年金制度の創設)

<引き続き検討事項>

■年金支給開始年齢引き上げ

■長期高額医療の高額療養費の見直しと外来受診時定額負担

■物価下落時に年金額を0.9%引き下げ

■生活保護の見直し

 

2.政府・与党の一体「改革」を行う理由・主張

(1)日本の社会保障制度は、国民皆保険・皆年金といった現行の社会保障制度の基本的枠組みが整い、先進諸国に比べ遜色のない制度となっている。

(2)しかし、2020 年度までには、さらに少子高齢化が進展し社会保障費の増加が見込まれる。このままでは社会保障制度が持続しない(破綻する)。

(3)現在の社会保障制度は、「給付は高齢者世代中心、負担は現役世代中心」となり負担と給付の均衡性(公平性)が確保されていない。「負担と給付が公平」となるように、社会保障制度を改革していく必要がある。

(4)国の財政は国及び地方の長期債務残高は平成24 年度末には対GDP比195%に達すると見込まれる極めて厳しい状況にあり、これを放置すれば財政危機に陥る事態にもなりかねない。

(5)国の一般歳出(注1)に占める社会保障関係費の割合は5割(歳出全体では3.3割)を超えている。その上毎年1兆円規模の社会保障の自然増が不可避となっている。社会保障の安定財源を確保することは、財政再建上からも避けられない。

(6) 今回の社会保障・税一体改革は、社会保障の機能強化・機能維持のための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すものである。

 

U.社会保障・税一体「改革」素案の問題点

1.「一体改革素案」は自公政権の構造改革路線への回帰と再編強化

 消費税は、1989年社会保障のためにと導入され、同じ理由で1997年増税された。そして、今回も「社会保障のために」として消費税増税が打ち出されている。自公政権時代に、消費税増税を打ち出すための会議、社会保障国民会議(福田内閣)、安心社会実現会議(麻生内閣)が開催され、それぞれ最終答申が出されている。

 小泉構造改革によって、貧困と格差が広がり、社会保障費の7年にも及ぶ削減政策の結果、医療崩壊、介護崩壊、そして年金制度の空洞化が進んできた。だから社会保障国民会議、安心社会実現会議では、現実の社会保障制度の矛盾、機能不全を明らかにして、社会保障の機能を取り戻すために、消費税増税が必要とされた。

 しかし、今回の一体「改革」では、社会保障改悪のオンパレードである。社会保障の機能充実を謳った項目でも、「高所得者の年金を引き下げることで短時間労働者に対する厚生年金加入化を進める」と社会保障部門のある項目を削って、ある項目に移すというものである。これでは、自公政権の構造改革と変わらない。いや社会保障制度の点では自公政権時代よりは明らかに後退している。安心社会実現会議の答申では「社会保障制度の機能充実」が目指されたからである。今回の「一体改革素案」は、自公政権の構造改革路線への回帰であると同時に、民主党的な再編強化といえる。

 2009年総選挙において、多くの国民は、「自民党政治を変えてほしい」という願いを民主党に託して政権交代が実現した。自公政権の政治を批判して誕生した民主党政権が自公政治を推進することは、「政権交代は何だったのか」として、政権の存在意義を自己否定するものである。

 

2.日本の社会保障は先進諸国と比べて遜色がないのか。

 「一体改革素案」では、安心社会実現会議の答申のように、「社会保障制度の機能充実、制度改善」を謳うことが出来ない。社会保障の機能は問題ではなく、「給付と負担のあり方」が問題としている。だから、社会保障の現状については、「先進諸国と比べて遜色がない」としたものである。

 「一体改革素案」は、この「日本の社会保障制度論」から始まり、読む者を唖然とさせる。この「日本の社会保障は先進諸国と比べて遜色がない論」は、先進諸国の医療や福祉の現状については国民はよく知らない、だからウソが見破れないものとして主張されている。しかし、リーマンショックの世界金融危機の時、首都のど真ん中に派遣村が出来たのは日本だけであったことを思い起こせば、「遜色ない論」のウソは明らかではないだろうか。

  そうはいっても、政府・与党の国の予算を使っての宣伝の影響もかなり大きいため、日本と西欧の高齢者の貧困問題と政策を通して、日本と先進諸国の社会保障制度の水準を比べる。

(1)生活保護全世帯の42.5%が高齢者世帯の日本と高齢者は生保対象外のイギリス・フランス

 現在高齢者の孤独死などが社会問題となっている。孤独死の背景には、高齢者の貧困問題が横たわり、それは、日本の年金制度の問題ともつながっている。現在、無年金者は、100万人以上で、国民年金だけの人約900万人の年金は、平均月額4万7千円にも届かない。老齢年金100万円未満が46.8%、女性では67.4%である。現在の国民年金の実態は、40年保険料納めて、国民年金額が月66千円である。年金制度では高齢者の貧困問題は予防も救済もできていない。だから、無年金・低年金高齢者は生活保護を受給するしかない。

  その結果、日本では生活保護全世帯の42.5%63万強)(2)が高齢者世帯となっている。さらに受給者は年々増えている。日本では、この上に生活保護で救助すべき貧困問題を抱える高齢者世代が放置されている。 

 民主党政権になってナショナルミニマム研究会が発足し、貧困率の公表などが行われた。そして各種調査から貧困の実態調査(推計)も公表された。それによると高齢者世帯189万世帯が生保基準以下所得世帯で、そのうち50万強世帯(注3)が生活保護を受給している。そして残りの139万世帯(高齢者世帯の15.2%)が生保でフォローされるべきなのに放置されている。

 イギリス・フランス・スウェーデンでは、65歳以上(イギリス60歳以上)の高齢者は、生活保護の対象外である。何故、西欧では高齢者が生保対象外なのか、その答えは簡単である。最低年金制度、最低生活保障制度で、全ての高齢者をフォローし、高齢者の貧困問題は解決されているからである。

 加えて日本では高齢者の貧困問題は放置されているだけではなく、生活保護基準未満の所得の高齢者に、高い介護保険料、高い医療保険料、そして重い窓口負担が強制されている。長生きが罪であるがごとく年々負担増と給付源が進められている。こうした高齢者の貧困問題と施策をみれば、日本とイギリス・フランス・スウェーデンなどとの差は天地の差である。これを「遜色がない」といって憚らない現政権には開いた口がふさがらない。

高齢者の貧困実態調査(推計) 単位(万)

 

総世帯数

最低生活費未満の世帯

被保護世帯数

生保以下世帯

生保以下の割合

保護受給率

勤労単単身高齢者

29

5

1

6

20.7%

16.7%

勤労高齢世帯

37

1

0.2

1.2

3.2%

16.7%

単身高齢者

410

101

44

145

35.4%

30.3%

高齢者世帯

437

32

5

37

8.5%

13.5%

 

913

139

50.2

189.2

20.7%

26.5%

2010510 厚労省社会・援護局保護課作成資料

3.このままでは社会保障制度が持続しないのか

 「一体改革素案」では、少子高齢化が進展し社会保障費の増加が見込まれる。このままでは社会保障給付費が増え続ければ、社会保障制度は持続しない、破綻すると国民を驚かしている。2011123日大手新聞に多額の広告費を支払って掲載した政府広報では、「胴上げから、現在は騎馬戦になり、やがて一人が一人を支える肩車時代になる。」としている。

 1989年、高齢化社会が到来するので、高齢化社会に備え社会保障財源を確立するとして消費税が導入された。社会保障の費用は高齢化がピークになる2025年として計画された。消費税が導入されてから22年間、社会保障制度はよくなるどころか、どんどん後退してきた。「一体改革素案」では、22年間の総括を行わないで、今度は計画達成年度を2050年に先送りをしたのである。高齢化社会危機論の誤りはこれまでも何度も指摘されてきた。0歳〜14才+65歳以上高齢者の人口/15歳〜65歳(稼働年齢層)までの人口で計算をしている。15歳〜65歳までの人でも就労していない人がいるし、65歳以上でもかなりの人が就労している。だから本来は、「総人口/就労人口」で計算すべきである。それは現在でも高齢化のピークの2025年でも同じ2:1である。

 

4.社会保障の財源について

(1)社会保障財源別収入額の推移について 

 表(1)は、1990年度から12008年までの社会保障財源別収入額の推移、表(2)は、同じ期間の社会保障財源別構成割合の推移を表したものである。表1社会保障財源別収入の1990年と2008年度の伸び率をみてみると被保険者163%、雇用主130%、国庫負担174%、その他公費343%となっている。その他の公費つまり自治体の負担が著しい増え、雇用主負担の伸びが一番低くなっている。

  (2)の社会保障財源別構成割合の2008年と1990年の差をみるとと被保険者+1.8、雇用主マイナス4.8、国庫負担+2.8、その他公費+5.0となっている。自治体の割合が増えて、なんと雇用主の負担がマイナスとなっている。国庫負担の構成割合のピークは1980年の29%である。それ以降下がり、消費税導入してから微増に転じたが未だに80年時点まで到達をしていない。

 国庫負担の割合を1980年の29%に戻すならば、約5.9兆円の財源ができる。さらに雇用主の保険料の割合を2002年の32.2%に引き上げるならば、5.3兆円の財源が作れる。合計11兆円である。

 

(2)社会保障の支出について 

 社会保障の収支状況について分析する。1998年以前に支出が不明なので1999年から2008年までの社会保障収支状況(表3)を基にする。99年〜08年にかけて、社会保障給付費は125.4%、管理費1117.6%、その他の支出が伸びが大きく145.0%である。他制度移転は年金制度への移転であろう。管理費の中には旧社会保険庁の職員の給与がふくまれている。もちろん借入ということだろうが、一時的にせよ、人件費を年金保険料で賄うことは許せない。

 運用損失の額は非常に大きい。一時は運用利益が大きな時もあっただろうが、こんな多額な損失でも委託した厚労省、委託を受けた独立行政法人の誰も責任を問われていない。年金積立金管理運用独立法人は、恐らく天下り先法人で、国債の利息は1.1%では年金積立運用利益が少ないという理由で、独立行政法人に高い手数料を払って運用が委託されているのだろう。これまでの市場運用での損失累積は膨大な額である。全て国債にすれば、億単位でのプラスで、そして独立行政法人への手数料もいらない。天下り先を維持するために、膨大な損失をし続ける年金積立金管理運用法人への委託をいつまで続けるのだろうか。

 その他の支出は支払基金事務費、施設整備費、保健施設費、福祉施設費、営繕費、組合債費、保険料等還付金等である。その他の支出の伸びは一番大きく、かなりの無駄な施設整備に使われていると思われる。

 

5.日本は先進諸国に比べて現役も高齢者も負担は重く、サービスは貧しい

「一体改革素案」では「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心という現在の社会保障制度を見直し、給付・負担両面で、人口構成の変化に対応した世代間・世代内の公平が確保された制度へと改革していくことが必要である。」と述べている。世代間対立を描き、漁夫の利を得る常套手段である。

 社会保障の原則は「給付は必要に応じて負担は負担能力に応じて」(社会保険庁社会保障テキスト)である。この原則から日本の社会保障制度の実際はどうなっているかを検証する。

(1)先進諸国からみる日本の社会保障財源構成のゆがみ

 各国の社会保障の財源構成比表(参照:前衛20122月関根秀明「社会保障・税一体改革経済学批判」)から幾つかのことが見えてくる。@雇用主の保険料の割合では、日本は諸国と比べて一番低い。A社会保障に配賦される企業税の割合には日本と他国とそんなに違いがない。B被保険者保険料の割合は日本がだんとつ一位である。スウェーデン・イギリスの3倍である。C付加価値税(日本では消費税)を社会保障の主たる財源にしている国はない。3.7%12.2%の割合である。D日本の消費税は、社会保障の財源の割合では諸国と違いは現状でも少ない。等々である。

 日本の社会保障は、その財源の構成割合において、先進諸国と比べて、国民の保険料負担が高く、企業の保険料負担が低く、そして国庫負担が低いという特徴を持っている。

 

(2)労働者の賃金は下がっているのに負担は能力を超えて増えている

 先進諸国に比べても日本の国民は世代を超えて社会保障の負担が強制されている。消費税が導入された1989年から、賃金は1990年代から一時的に上がった時があるもののず〜と下がってきた。賃金が下がったのは先進国では日本だけである。日本では賃金が下がるのにも係わらず社会保険料の負担が増え続けている。

  民医連歴12年のある青年の賃金を見てみると税と社会保険料の負担が増えて、賃金は微増しているが手取りが下がっている。賃金の伸び以上に税と社会保険の負担が伸びている。

  一方、高齢者も現役と同じく、負担応力を超えて社会保険の負担増が強制されている。所得のない人からも容赦なく介護保険料、後期高齢者医療保険料が徴収されている。

 所得階層別の税と社会保険料負担の推移をみると1億円以上の所得の人の負担は下がり、逆進的になっている。日本の社会保障費の財源において、99%の国民の負担が重く、1%の高額所得者の負担が軽いものとなっている(参照:前衛20122月垣内亮「社会保障を口実にした庶民大増税」)。

  現役と高齢者の負担の不公平はない。実は99%の国民と1%の高額所得者の負担の公平が確保されていないというのが真相のようである。

 

(3)「給付と負担の公平論」は私的保険の論理−社会保障ではない

 「一体改革素案」は「現在の社会保障制度は、『給付は高齢者世代中心、負担は現役世代中心』となり負担と給付の均衡性(公平性)が確保されていない。『負担と給付が公平』となるように、社会保障制度を改革していく必要がある。」と述べている。

 社会保障の原則は「給付は必要に応じて負担は負担能力に応じて」(社会保険庁社会保障テキスト)である。この原則から日本の社会保障制度はますます外れてきていることは、上記で説明してきた。ならば「一体改革素案」の「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心論」と実態をゆがめて描き、世代間対立を煽るのであろうか。

 それは、政府・与党の「社会保障観」の結果である。政府・与党は社会保障について「自立自助が基本でそれを共助で支え、それでも足りない場合に限って公助がある」と位置づけ、共助の基本は「社会保険であって、それも保険原理の徹底による、国庫負担などを前提にしない」私的保険に限りなく近い物を考えているからである。私保険は負担に応じた給付になっている。

 社会保障は、相互扶助から社会保険、そしてファシズとの闘いを経て、全ての人の尊厳を守る社会保障へと発展してきた。政府・与党の社会保障観は歴史に逆行するものであり、世界人権宣言にも逆行するものである。それは社会保障ではない。

 

(4)社会保障費が国の債務残高増大の要因ではない。

 「一体改革素案」では、社会保障財源に国庫負担が増え続け、今後も増え続けることが予想されることに対して、「国の一般歳出に占める社会保障関係費の割合は5割(歳出全体では3.3割)を超えており、社会保障関係費の相当部分を将来世代の負担につけ回しているのか。」と「孫の代までの借金をして、社会保障に国庫負担を増やして良いのか」と国民を脅かしている。

 わが国の借金が社会保障費が増え続けてきたこと、今後も増え続けるから生まれ拡大するかのように述べられ、宣伝されている。しかし先進諸国でGDPに占める社会保障給付費の割合が一番低いのは日本である。またGDPに対する債務残高に割合が高いのは日本である。これだけみても社会保障費のために国の借金が増えてきたというウソの化けの皮がはがされる。

 日本の債務残高が増えてきたのは、法人税・高額所得者の減税に実施によって税収が低下してきたこと、そして企業が高蓄積を実現し、内部留保を拡大しているにも係わらず、減税を続けたこと、そして歳出においては、大企業への大判振る舞いを続けてきたからに他ならない。借金を作ってきた政府が借金の原因は国民の社会保障要求であるかのように言うのは、言語道断であり許されない。

 

(5)真実に国民が安心できる社会保障の安定財源とは?

 国の予算は歳出予算が先で、歳出に必要な税収をいかにして確保するかのようである。

社会保障の財源とは、最終的には、国民の労働や暮らしを守る政治の実現にかかっている。大事なのは税金の使い方、税金の集め方である。

 朝日訴訟一審判決では、「予算を潤沢にすることによって最低限度以上の水準を保障することは立法政策としては自由であるが、最低限度の水準は決して予算の有無によって決定されるものではなく、むしろこれを指導支配すべきものである。」と述べている。要は歳出において社会保障充実を予算の第一にした税金の使い方に改めることである。そして大企業本位の歳出や軍事費、無駄な公共事業などをやめれば社会保障の安定財源は確保できることになる。

  社会保障の負担の原則は、負担能力に応じて負担するということである。先進諸国からみれば

日本の社会保障は、その財源の構成割合において、先進諸国と比べて、国民の保険料負担が高く、企業の保険料負担が低く、そして国庫負担が低いという特徴を持っている。この企業の社会保障負担をドイツ並みにすれば8兆円、スェーデン、イタリア並みにすれば13兆円の財源が生まれる。

 大企業は社会的な存在であり、日本の大企業が日本の社会保障制度などの恩恵を強く受けている。社会的責任があり、負担する能力に余りがある。法人税を元に戻し、あるいは資本金10億円以上の法人に「社会保障責任税」(仮称)などを課税すれば財源は十分確保できる。これによって、大企業が外国に行くというならば、行かせればよい。

V.税制改革ー消費税増税の問題点

(1)消費税増税は国民の暮らし・福祉を破壊する。

 1990年代に入ってからの「税と社会保障の一体改悪」は二度行われた。最初は、1997年橋本内閣の時で、6大構造改革を打ちテキスト ボックス:                    小泉内閣による主な増税
2004年1月	所得税の配偶者特別控除廃止
2005年1月	所得税の公的年金控除縮小・老年者控除廃止
     6月	住民税の配偶者特別控除廃止
2006年1月	所得税の定率減税半減
     6月	住民税の定率減税半減
6月	住民税の公的年金等控除縮小・老年者控除廃止
6月	住民税の高齢者の非課税限度額廃止
2007年1月	所得税の定率減税全廃
6月	住民税の定率減税全廃

出し、消費税の増税(3%5%)、健康保険本人2割負担化などが実施された。

 二度目は、小泉内閣の時で右の通りの税制度改悪を行い、健康保険3割負担実施、居住費・食料費などを保険外とする介護保険改悪実施、後期高齢者医療制度の創設などが実施された。

 この結果、国民は所得が減少しているにも係わらず、税と社会保障の負担が増え続けた。例えば、通院が必要にも係わらず経済的理由で受診できない事態が広がってきた。貧困と格差が拡大され、それが前述の2009年総選挙時、「自民党政治を変えてほしい」という国民の願いとなり、政権交代の原動力になった。そして年間所得200万円の世帯は1,000万人を超えるという事態が続き、1998年以降自殺者が年間3万人以上という事態が続いている。

 この上に、今回の三度目の税と社会保障の一体「改革」が実施されれば、国民の暮らしといのちへの影響は図り知れなく、深刻な事態となることは明らかである。

 

(2)東日本大震災・福島原発事故被災者の暮らし・復旧・復興を困難にする

 東日本大震災からの復旧・復興には長期にわたっての経済的・精神的な支援など様々な支援が必要である。消費税増税が実施されたならば、東日本大震災・福島原発事故から生活・営業の再建を目指して奮闘している方々に打撃的な影響を与える。そのような被災者に冷たい仕打ちとなる消費税増税は人道上からも許されない。

 驚くべきことに、「一体改革素案」には、東日本大震災について、「復興需要の増加が着実な成長を支え、」という点でしか述べていない。消費税増税をしたら、生活・営業を再建し始めた被災者たちを再び困難に陥れることを何ら考慮していないのである。

 

(3)5%引き上げても、社会保障は改善されない

   「一体改革素案」では、消費税を社会保障目的税化するとして20144月から8%201510月から10%へ消費税を引き上げるとしている。消費税率を5%引き上げた場合の使途は、社会保障4経費維持に1%、消費税引き上げに伴う社会保障支出増に1%、高齢化に伴う自然増に1%、基礎年金財源に1%、社会保障の機能強化に1%として説明されている。社会保障をよくするために消費税と言いながら、実際に社会保障の機能強化には1%分しか回らない。昨年6月の「一体改革成案」作成審議の時に、閣僚からも「これで国民に説得できるどうか自信がない」という声があがるのも当然である。

 そして社会保障の機能強化の1%も真実に機能強化に配分されるかは不明である。社会保障を改善するメニューがほとんどないからである。「社会保障財源のため」にというのは消費税を引き上げるための口実であることは明らかである。

(4)一層の景気悪化、税収全体が落ち込む

 1997年、消費税5%への引き上げなど9兆円の国民負担増が実施された。当時日本経済は、バブル崩壊から回復し始めていたが、この負担増は一気に景気に冷や水を浴びせ、その後の景気悪化を招いた。後に増税を強行した故橋本首相は、これらの負担増が「不況の原因の一つであった」と述べている。

 消費税を引き上げた場合、景気・経済を更に悪化させ、所得税・法人税の一層の落ち込みなどから税収全体の減収を招く事態さえ指摘されている。実際に消費税を5%に引き上げた1997年では、税収は増加して54兆円(一般会計)になったが、今日までこの税収を上回った年はない。

 

(5)消費税は社会保障の目的と相容れない

 社会保障の目的は、国民所得の再分配を通して、国民の生活の向上を図り実質的な平等を確保していくことにある。しかし、消費税は、所得の低い人ほどその所得に占める税負担(割合)が高くなるという「逆進性」を持っている。社会保障の財源をこの逆進的な消費税で賄うということは社会保障の目的、本質に相反するものである。

 

(6)消費税率の際限なき引き上げとなる

   消費税を社会保障の目的税とし、将来的には消費税を主な財源として社会保障給付の公費全体を賄っていく指針が示されている。消費税で国の社会保障財源を賄うということである。

 政府が示した「社会保障に係る費用の将来推計」では、必要とされる公費負担額は2015年では約47兆円、2025年では約61兆円とされている。公費部分を消費税収に限定すれば、消費税率は2015年には18%(1%=約2.5兆円)、2025年には20%超(1%=約2.9兆円)が必要となる。消費税で社会保障財源を捻出するということは、国民に対して「消費税の増税か、それがいやならば社会保障サービスを減らすか」、選びようがない選択を迫ることになる。この悪魔の選択の行方は、介護保険で痛いほど体験をしている。

 

(7)国民には増税、大企業には減税−これは逆さま

 昨年法人税の4%減税が決定され、2012年度より実施される。国民には「孫子の代まで借金を背負わせるのか」と恐喝しながら、内部留保が積み上げて負担能力も負担する義務もある大企業に、何で減税なのか。言っていることと行っていることは逆さまである。消費税は社会保障のためにと創設され、同じ理由で増税されてきた。しかし、消費税と同じ額が法人税減税と高額所得者の減税に消えたと言われる。今回の消費税増税の目的も、これまでと同様で法人税の減税のための財源づくりだったのである。

 

(8)「一体改革素案」では、社会保障の機能強化にも財政健全化にもならない。社会保障・財政もさらに悪化する。

 「一体改革素案」では、「給付に見合った負担を確保しないままその負担を将来世代に先送りし続けることは、社会保障の持続可能性確保の観点からも、財政健全化の観点からも困難である。」「今回の社会保障・税一体改革は、社会保障の機能強化・機能維持のための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すものである。」と述べているが、「一体改革素案」では、ますます企業の負担と国の責任が軽減されることになり、社会保障はよくなることはない、社会保障は「一体改革」によってもはや社会保障と言えないものに変質させられる。そして消費税によって国民の負担が増え、国内需要は冷え込むことは歴然としている。経済はどん底に落ち、税収はさらに落ち、財政のさらなる悪化は避けられない。それは絶望への道である。

 

W.社会保障の拡充でこそ日本経済は再生する

1.「2011311日」を忘れない

 2011311日に発生した東日本大震災と大津波の影響により東北地方太平洋沿岸は、広範、かつ未曾有の被害にさらされ、加えて福島第一原発事故により福島県内の放射能汚染は日本の原発史上最悪のものとなった。国民は、今回のような事故が起きれば制御不能になるのが原発であることを思い知り、「原発安全神話」は完全に崩れ去った。危険な原発政策を見直し、将来的にはゼロにしていく、そして日本のエネルギー政策を抜本的に転換していくことが大事であることを学んだ。そしてそのエネルギー政策の転換とかかわって、「大量生産、大量消費、大量廃棄社会のあり方」や「24時間型社会」のあり方などを点検し、健康で人間らしい働き方と生き方、社会のあり方を本格的に考えていく契機にしていこうと多くの人々は考えた。

 東日本大震災では、災害から国民の命と暮らしを守る国・自治体のあり方が問われた。災害の時には、高齢者や障害がある人や、子ども達が真っ先にその被害を受けたのである。様々な災害から住民の暮らしといのちを守るには、普段から医療、介護、福祉、子育て支援などの強い基盤とネットワークをつくることが大切であること、国・地方自治体の第一の施策は、「社会保障の充実」「防災対策」にすべきであることを学んだ。

2.社会保障の充実でこそ購買力のアップとなり経済再建となる。

   2011311日からの教訓」を具体化することが東日本大震災の復旧・復興のためにも、そしてこの間の政治の増税と社会保障改悪の連続で、苦難を強制されている国民の暮らしをよくするためにも求められている。そして社会保障を豊かにすることは、国民の購買力をアップさせ、需要と供給のミスマッチになっている日本経済を活性化させ、財政の健全化につながる道であり、私たちの希望を手にする道である。

 

3.憲法9条・25条が輝く社会への転換を

 「2011311日」は、今後日本の歴史の転換点となり長く記憶される日にしていくことが求められている。「2011311日」をどういう日にするのかは私たちの現在、これからの運動にかかっている。「2011311日を契機に、この国は変わった」「国民の暮らしやいのちが大切にされる社会に変わった」と言えるようにしていくことが今私たちに求められている。憲法9条、25条が生かされる社会に向けての転換が今必要となっているのではないだろうか。

  そのためには、野田内閣がネバ− ネバ− ギブアップで進めている消費税増税・社会保障改悪の一体改悪を世論と運動を広げてストップさせる必要がある。

 

 

 

 

 

 

(注1):一般歳出から国債費・地方交付税を除外したもの

(注2):20111213日厚労省生活保護の動向速報(20118月分)

(注2):201049日厚労省「生活保護基準未満の低所得者の推計について」(2007年国民生活基礎調査から)