3/17号 「医師の権利侵害問題に行き着く」、指導・監査を問題視

20100317日 (m3ポイントとは

 「個別指導の場では、(指導を担当する技官から)『保険医をやめてもらってもいい』などと言われた。しかし、技官を相手にしても始まらない。医師会・歯科医師会の問題、厚労省の姿勢の問題、健康保険法・指導大綱・監査要綱の問題という、三つの構造的な問題を解決する必要がある。中でも一番の問題は健康保険法・指導大綱・監査要綱の問題だ

 313日、都内で開催された「保険医への行政指導を正す会」の全国集会で、こう指摘したのは、青森県保険医協会副会長で、歯科医の成田博之氏。同会は20093月に発足、青森県保険医協会を中心に、指導・監査の改善を求める有志で組織しています(会長は、全国保険医団体連合会理事で、青森県保険医協会会長の大竹進氏)。成田氏は、2007年に受けた個別指導を問題視し、200812月、国を相手に10万円の損害賠償を求めて提訴しています。

 

 「指導」とは、保険診療の取り扱いなどを周知徹底する目的から、健康保険法に基づき行われるもので、「個別指導」はその一形態。成田氏は、 (1)個別指導の対象者として選定された理由の開示を求めたが、拒否された、(2)適切な処置を行っているにもかかわらず、書類上、処置をした歯の部位の記載が1カ所間違っている(本数には誤りなし)という理由だけで、審査支払機関への返戻ではなく、1年間にさかのぼってカルテを点検し、「自主返還」するよう指示された、の二つが提訴理由です。

 (1)については、レセプトの平均点数が高いことが理由なのか、あるいはそれ以外の理由かを尋ねたものの、開示されませんでした。裁判において国は、「行政手続法では、理由の明示が義務付けられるのは不利益処分の場合のみ。個別指導の理由明示は、法的に義務付けられていない」と述べ、個別指導は、不利益処分を課す「監査・行政処分」とは異なるとしています。しかし、一方で、「個別指導は、違反行為を是正するために、監査に先立ち行うものであり、不用意に選定理由を開示すると脱法行為の助長や対象者による証拠隠滅、情報提供者の割り出し等を行う恐れがある」と、指導と監査は連動するものであると述べるなど、やや矛盾した主張をしています。

 「裁判では、『当局の指導に異議を唱えることは、保険医資格の取消を覚悟しなければならない』と証言した人がいる。お上にモノを言えば、資格停止を恐れなければならないこと自体、おかしい。そんな行政指導はない」と成田氏の代理人である、葛西聡弁護士は指摘しています。

 指導・監査をめぐっては、従来から指導・監査の場で担当官の高圧的な態度が見られるほか、指導・監査の対象選定や処分の判断には行政の裁量の余地が大きいなど、そのあり方が問題視されていますが、結局、法体系に諸原因があるとする成田氏は、「指導・監査の法的根拠となる、健康保険法が明治憲法下の大正時代に制定された法律であり、近年の行政手続法などとの整合性を欠き、医師・歯科医師の人権などの配慮を欠く。また指導大綱・監査要綱は官僚が自分たちに都合のいいように作成しており、特殊な行政指導が延々と続けられてきた」と指摘しています。

 「指導大綱・監査要綱の改正に当たっては、それを公開し、医師・歯科医師がその制定にかかわっていくことが必要」と成田氏は強く主張。

 「保険医への行政指導を正す会」では、「人権侵害が疑われる事例」を集め、日本弁護士連合会人権擁護委員会に、「健康保険法・指導監査大綱に基づく指導監査における保険医への人権侵害についての調査と是正を求める要請書」を提出する活動を行っています。まず1次分として320日まで集まった分について、327日までに提出する予定です。

 なお、313日の全国集会では、岐阜市で開業する大島健次郎氏(岐阜県保険医協会副会長、保団連理事)が自らの個別指導の経験を紹介したほか、「溝部訴訟」を支える「山梨小児医療を考える会会長の田中聡顕氏が裁判の経過を説明しました。

 「溝部訴訟」とは、「無診察投薬」で約42万円が不当・不正請求に当たるとされ、甲府市の小児科診療所が200511月に保険医療機関指定取消・保険医登録取消(取り消されると5年間は指定の再申請できず)されたことに対し、その処分の取消を求めた訴訟。「取消の一番の被害者は子供。患者の親たちが自然発生的に、『この先生に辞められたら困る』として患者会が発足。署名活動を行ったところ、甲府市の人口の約15%に当たる28000人分以上の署名が集まった。社会保険事務所に公開質問状を提出したが、まだ回答は得られていない。まっとうに医療をやっている医師を平然とつぶすような動きがある気がしてならない」(田中氏)。同裁判では、20062月に保険の取消が一時執行停止になっており、今月331日に判決が出る予定です。