九州山口地区の広域紙の西日本新聞が、1面に、以下の特集記事を、1/31か
ら、2/15まで連載しました。医科歯科連携の端緒ともなろうかとおもいます。
この編集委員佐藤さんは、熊本の養生園で竹熊先生に、食の大事さを習われた方
でした。

とても良い記事ですので、こちらでもご紹介いたします。

 2010,1,31 西日本新聞

食卓の向こう側シリーズ 第13         
 続 命の入り口 心の出口
 
   歯周病  8割が患う「国民病」に

 「朝晩2回、毎日歯磨きしているのに何で」。ピンクに染まった自分の歯に、思わず叫びそうになった。 福岡市の船越歯科医院で受けた歯垢(プラーク)の付着をチェックする「染め出し」検査。普段より入念に磨いたつもりなのに結果は無残だった。
 「歯と歯茎の間や歯間などにブラシが当たっていないんです。正しい歯磨きをまず覚えてください」と院長の船越英次(62)
 ブラシの持ち方から始まり、前歯、奥歯、その裏側−。「食卓の向こう側」、取材班に長年かかわりながら、50歳近くにもなって歯磨きを習うのに少々情けなさを感じながらも、これまで歯磨剤の清涼感だけで磨いた気になっていた実態を痛感した。
 そして歯周病の診断。歯と歯茎の間の溝(歯肉溝)に探針を入れ、その深さを測る。3ミリ以内なら問題ないが、船越が告げた数値は、それを上回っていた。
 「重度の歯周病。放置すると、歯がなくなりますよ」

 かつて歯槽膿漏と呼ばれた歯周病は今や、国民病といわれる。厚生労働省によると、20歳以上の8割は程度の差はあれ歯周病を患っており、519歳でも46割が何らかの形で歯茎に問題があるという。
 歯周病は口内細菌によって引き起こされる感染症だ。細菌は、食べかすを餌に繁殖。歯にべったり付着し、細菌の集団である歯垢となる。ヌルヌルの歯垢が歯肉溝に入り込み、定着したのが歯周ポケット。歯周病菌はここで炎症を起こし、徐々に歯根の周囲の骨を溶かす。
 厄介なのは、自覚症状のなさ。口臭がひどくなったり、歯茎から出血したときは、もう「重度」という場合が多い。
 「対策は正しい歯磨きと、歯の定期検診。それと、唾液を出す食生活を心掛けること。それしかない」。船越は言った。

 「ヒトが歯周病になるのは、火を使い始めたときからの宿命」と、福岡歯科大学教授の坂上竜資(50)は解説する。
 火がなかった時代、ヒトは他の動物と同様、硬い食べ物をそのまま食べた。よく噛むことで唾液の分泌を促し、豊富な食物繊維が自然の歯磨きとなって、虫歯と同時に歯周病も防いだ。
 それが火を使った調理によって一変。栄養吸収は格段に良くなったものの代わりに、新たな病を引き受けることになったという。
 噛まずに済む軟らかいものを食べ続けるとどうなるか。日本歯科大学新潟歯学部が行ったサルの実験がある。
 ニンジンやリンゴなど、栄養バランスを考えた餌を、片方にはそのまま、もう片方にはミキサ一でドロドロにして与え続けた。3カ月後、固形食のサルは何の問題もなかったが、ミキサー食の方は歯垢が付いて歯茎がボコボコに。1年半後には歯石が付いて出血する状態になった。
 軟らか食が多い現代の食卓では、予防がなかなか難しい口の生活習慣病、それが歯周病なのだ。

           
全身の病気とも関係
 「命の入り口」である口まわり、それも歯の病気だから、軽視するつもりはない。しかし、多くの罹患者が気付かなかったり、「悪化したら治療すればいい」と放置しているケースが多い歯周病。 「甘く見てはいけません。歯周病は実は全身とかかわる深刻な病気なんです」。坂上はそう警告する。
 歯周ポケットにすみ着いた歯周病菌は、歯の周囲にある毛細血管を通じ、それ自身が持つ内毒素を全身にまき散らす。 それとともに、免疫機能との戦いの中で発生する物質が、体の機能を狂わせる。 その代表的な物質の一つサイトカインは、血糖値を下げるため分泌されるホルモン「インスリン」の出を阻害。糖尿病の症状を悪化させることが知られている。 「肺炎、心臓疾患、腎炎。歯周病は直接の原因にならなくても、症状を悪く
するリスク要因になる」と坂上は言う。

 飽食ニッポンで起きている奇妙な現象がある。 それは、体重2500グラム未満で生まれる低出生体重児の増加だ。2004年の発生率は9.4%で、統計のある1990年に比べ約5割増。1500グラム未満の極低出生体重児は、出生後に亡くなったり、障害を負うリスクが大きいとされる。
 歯周病は、低出生体重児を招く早産の引き金の一つとみられている。熊本大学大学院生命科学研究部准教授・大場隆(49)は、「妊婦の歯周病は、早産で低体重児を産むリスクが2.8倍高くなる」と言う。特に妊娠期の女性は、ホルモンバランスが崩れるため、歯周病になりやすい。
 2006年、大場は熊本県、県歯科医師会と共同で、同県天草地区の妊婦720人を対象に早産予防に取り組んだ。
 44の歯科医院で検診を行い、歯磨き指導や口腔ケアを実施。産科では早産を招く子宮内の感染症「絨毛膜羊膜炎」対策として、発症する可能性がある妊婦に抗菌剤を飲んでもらった結果、極出生体重児の発生率が、過去5年平均の3割まで減少した。
 大場は言う。「歯周病が即、早産につながるわけではない。だが、自分の口の中のことが、次世代の命にもかかわることを知ってほしいのです」(敬称略)

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  西日本新聞の医科歯科関連記事の2です。

 続 命の入り口 心の出口  2
                   2010. 2. 1西日本新聞
   
唾液  発がん物質の毒も消す

 「検診は楽になったけど、口が乾いているのはまずいなあ」地域の小学校の歯科検診をしていた岡山大学病院小児歯科、岡崎好秀(56)がつぶやいた。
 岡崎の心配は子どもたちの唾液の減少。昔はちょっと口を開けているだけで、口内が唾液で満ちあふれた。今そんな子はまれ。口の中が乾き、皮膚もカサカサの子が増えている。
 唾液腺は15歳ごろまで発達し、20歳ごろから分泌能力が低下するといわれている。小児期に十分な発達がなければ、ピークが下がり、衰えも早くなる可能性がある。
 「かつて唾液の分泌量は111.5gといわれていたが、今は800_〜1gぐら
い」。九州歯科大教授・柿木保明(54)は言う。
 原因はさまざまある。
 まず?む回数の減少。水分が少なく、硬い食べ物はよく?んで唾液を出さないと飲み込めない。だが、軟らかいものなら、そのまま飲み込めるし、水や牛乳などで流し込む食べ方も?まない食生活に拍車をかける。
 さらにかぜ薬や精神安定剤など薬の副作用による口内の乾燥。ストレス社会が生み出す緊張も唾液の分泌量を減らす。

 唾液が少なくなると、どんな問題があるのか。 虫歯や歯周病にかかりやすくなり、口臭がひどくなる。味覚にも異常をきたす。唾液に溶けた食物の味覚物質が、舌の上にある味蕾に触れてはじめて味を感じる仕組みだからだ。 また、高齢者になって入れ歯を装着する際、外れやすくなったり、痛みを伴ったりもする。
 唾液の威力を示す実験がある。
 ネズミの背中の表皮を1a四方切って2日間、放置する。1匹ずつ単独で飼った方の治癒率は20%。お互いに背中をなめあった数匹飼いの方は、75%まで回復した。唾液中に含まれる上皮成長促進因子(EGF)の治癒力とリゾチーム、ラクトフェリンなどの抗菌効果だ。
 「手足なら化膿するような傷も、口の中では治りが早いでしょ」と岡崎。唾液の抗菌力は日常生活に必要不可欠なのだ。

 「唾液には毒消し効果がある」と言うのは、同志社大学名誉教授で京都バイオサイエンス研究所所長・西岡一(75)。豆腐やソーセージなどを日持ちさせる夢の殺菌剤として開発されたものの、1970年代、その発がん性によって列島をパニックに陥れた食品添加物「AF-2」問題をきっかけに、唾液研究を始めた。
 西岡は、唾液に含まれるペルオキシダーゼなどの酵素が、AF-2の毒性を25分の1に弱めることを実証。汚染米事件で有名になったカビ毒「アフラトキシンB1」の毒性も、唾液と混ぜると、30秒で10分の1以下に抑え込めることを突き止めた。
 食中毒には二つの対策がある。「口に入る前の予防」と「口に入ってからの予防」だ。
 西岡の結論。「一度食べ物をおなかに入れてしまうと、そこから先はどうにもならないが、口の中にある限りは自分の意志で対応できる。唾液を出すため130回かむことだ」
                             (敬称略) 



 

西日本新聞の医科歯科関連記事の3です。

続 命の入り口 心の出口         
                   2010. 2. 3西日本新聞

   
舌体操  「あいうべ」で口を潤す

 顔全体の筋肉を使い、声を出しながら「あ」「い」「う」と言い、最後に「べー」と舌を突き出す−これが「あいうべ」舌体操。
 「あいうべは口呼吸を鼻呼吸に戻す、魔法の言葉」。考案者の内科医院「みらいクリニック」(福岡市博多区)院長今井一彰(39)は言う。
 これまでリウマチにアレルギー症状、うつ病など、心身の不調を訴える患者に指導してきた。連続1分間を13回。この舌体操によって3カ月以内で症状の改善が見られたという。
 例えば極度の便秘とアレルギー性鼻炎の女児(9)。下剤や抗アレルギー剤など16種類もの薬を飲んでいた。今井の指導で160回の舌体操を実践。便秘も治り、最後は薬も手放した。
 鼻呼吸はまず噛、鼻毛で大きなほこりを除去し、表面に繊毛を持つ繊毛細胞が異物を除去。鼻腔に張り巡らされた毛細血管によって湿気を帯びた空気が入る。
舌もまた、上前歯の裏側の少し後ろに位置するから、口腔内の空間は狭まり、唾液で潤う。
 一方、口呼吸は空気が通る空間を確保するため、必然的に舌の位置が下がる。すると、外気が直接口腔内に入り、舌や口の粘膜が乾燥。唾液不足によってカビの一種のカンジダの繁殖や、口内炎、肺炎、インフルエンザなどにかかりやすくなる。
 アレルギー性鼻炎や、あご、舌、口周りの筋肉の未発達、歯列の乱れ、姿勢の悪さなどによって引き起こされる口呼吸。唾液の分泌が減少し、口がからからの状態が常時続くドライマウス(口腔乾燥症)の原因の一つだ。 「ドライマウスで病院を訪れた患者のうち、95%が口呼吸をしていた」と今井は言う。

 ドライマウスは、虫歯や歯周病、口臭を招くとともに、免疫力を低下させる万病のもと。国内に約800万人の患者がいるとされるドライマウスを専門に診る九州歯科大付属病院高齢者歯科教授の柿木保明(54)によると、「ここ数年、舌が腫れぼったい若い患者が多くなった」という。舌が腫れると動きが悪くなり、唾液の量も減る。
 「スーパーモデルのスタイルの秘密は水をよく飲む」というダイエット法をまね、16g以上の水を飲んでいた20代女性は、水の飲みすぎで唾液腺の働きが悪くなり、口腔内の乾燥を招いていた。
 だが、ドライマウスの最大の要因は、唾液腺を萎縮させるかぜ薬や血圧降下剤、抗うつ剤など薬の影響2008年、九州歯科大と佐賀県が行った調査では、健康な高齢者の3分の1が不要な薬を飲んでいた。
 今井は、医学生時代、薬漬けの患者を見て疑問を持った。東洋医学を学び、あごや口、舌の筋肉を大きく動かすと、「ポンプ作用」によって唾液の分泌が促され、顔面の血流が良くなる口の体操を知った。それをヒントに6年前、作り上げたのが「あいうべ」体操だ。
 「生き物本来の鼻呼吸に戻す」舌体操。余分な薬代はいらない。
                             (敬称略)