歯周疾患と心臓病(問題提起―歯科サイドから)




歯周疾患と心臓病(問題提起―歯科サイドから) U 歯科の立場から
デンタルプラーク、歯垢と呼ばれているものを患者さん本人の口から採って『これなーに』と、肉眼で見せてから聞くと、多くの反応は、しばしの沈黙の後、たいていの場合、「食べかす」という答えが返ってきます。 歯垢という答えが返ってきたときでも、もう一度、『それじゃ歯垢ってなーに』と聞くとわからない事がほとんど。時には、『先生、朝食べたパンかすが残っているんだ』などという反応もあります。

それでは…と、位相差顕微鏡で患者さんに見ていただくと、絶句!です。まず、運動する菌の多さに驚くようです。赤血球、白血球、かび、動かない球菌、桿菌なども必ず見る事ができます。たまには今回取り上げられる予定のマクロファージも見られます。患者さんは1ミリグラムに1億個と言われている、殆どが菌塊である歯垢の実態を知って驚くわけです。私は、毎日位相差顕微鏡でプラークを眺めているのですが、このPg菌に関しては、サイズが小さすぎて判別できません。時々、赤血球の表面に粒粒がくっついている像を見つけたときは、これがP.g菌かも知れないなと思うくらいです(参考資料@)。

臨床の現場ではこの菌の存在をその場で簡単に確認する方法を持ち合わせていないのが現状です。それではほかにまったく手がないのかといえば、少しは役に立つ方法として、歯周病の有無、炎症の程度、コントロ−ルのレベルなどは、間接的に、Treponema属(T、denticola)の有無、増減で推測することができるようです。(参考資料A)
そして、このT.denticolaは簡単に位相差顕微鏡で見ることができます。
 
(参考資料)奥田克爾著『デンタルプラーク細菌』 より
参考資料@Porpyromonas gingivalis は成人性歯周疾患の原因菌の一つ。病巣から高率で発見、分離される。つよい悪臭を放つ、G(−)短桿菌。この菌株群には、毒性の強いものが有り、食細胞に強い抵抗性を持つ。粘膜上皮や赤血球への強い付着性を有する。 唾液で覆われた歯の表面や他のプラーク細菌にも付着する。線毛 と菌体表面の小胞(vesicle)が主な付着因子。

参考資料ATreponema denticola はP. gingivalis以上に歯周ポケットに増加しているのに、Pg菌と異なり、特異抗体の上昇を感知できない。T. denticolaは 免疫応答を抑制し免疫反応を起こさせないようにしている。マクロファージの抗原認識能力を障害させる。重要な事は、この免疫抑制因子は、他の歯周病菌に対する免疫応答も押さえてしまう為、他の菌種群もますます増加し炎症を悪化させる。すると、炎症の悪化により、この菌の栄養源である、歯肉溝浸出液が増加し、ますます棲みやすくなると言う悪循環を引き起こす。

さて、このPg菌その他が心臓疾患との関係で話題となっている訳ですが、エビデンスとして代表的な研究のひとつは、ノースカロライナ大学のBeck教授らの発表で、歯周病は心臓血管系にも波及し、その場所で心臓血管系疾患の発症リスクを高めるというものです。ほかにも数多くありますが、おおくは疫学調査で、その要約はテキスト中に多く掲載されています。また、解剖所見による新しいエビデンスとしては、カナダのトロント大学の病理学教室が、アテローム性動脈硬化になったヒトの頚動脈や冠状動脈に、心臓疾患の無いヒトには通常は発見されることのない、Pg菌が、約40%のヒトにおいて分離されたという研究を発表しました。

『テーマその1』
日本でのエビデンスはというと、今回のテーマに講師として依頼した先生方にPg菌を尋ねてみたところ、全員、聞いたことも見たことも無いという返事が返ってきました。これはいったい何を意味するのか。歯科ばかりでなく、医科にとっても大きな問題を提起しているのではないか。同じ菌を歯科と医科で別の名前をつけているなどという馬鹿を言うつもりもありません。しかし、何かが今までお互いに足りなかった、研究不足であったと言えないでしょうか。日本において何がどこまで解明されて、現在どこまでが確かといえるのかが、今回のテーマのひとつです。

糖尿病、早産のパートでは、歯周炎という慢性炎症に起因するメディエータの全身疾患への関与を中心にした話題でした。今回は、細菌そのもの『特にPg菌』の心臓血管系疾患に関与する話題です。本当に、口腔内にいたPg菌が心臓血管系に伝播し、そこで増殖し、重篤な症状を引き起こすのかということです。しかし、いろいろな条件がクリアされないと確証されたと言えない段階かもしれません。たとえば、

@ 心臓血管系にPg菌が発見されたとして、果たしてその菌は歯周炎由来のものといえる のか。その証明は。
APg菌はどのようなメカニズムで、伝播し、心臓血管系に付着し、増殖するのか。Pg菌にその性質があるのか。  
B心臓疾患に関与する口腔由来の菌は、Pg菌だけなのか
C歯周疾患、心臓疾患(先天的奇形などを除いて)は老齢者に多く発症するようです。老化という現象に、単に付随して起きるもので、単に病気の進行に時間がかかるだけなのか。
D口腔内やポケットにPg菌が存在すれば、すべてのヒトに歯周疾患は発症するのか。  E免疫機能、遺伝的違いは? 

さまざまな証明されるべき事項があると思います。








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