賛成派 04年日経新聞




混合診療を考える(上)
混合診療の解禁が論議されているが、 不明確な混合診療の定義をはっきりさせ制度の透明化を確保すれば、問題の過半は解決する。
また硬直している特定療養費の運用を改善することによって、 患者の価値観の多様化に対応していく必要がある。
    「特定療養費」の運用改善を
        まず透明性を確保
           多様化する価値観を包容
  開原成充  国際医療福祉大学教授
◆保険外診療 実態は様々
 現在、混合診療が医療政策論争のテーマとなったために、 混合診療に賛成か反対かといった議論になりがちである。
しかし、いわゆる混合診療の実態を分析した上で議論する必要があるというのが本稿の趣旨である。
 まず、混合診療とは何かを理解する必要がある。 日本の医療保険制度では、保険でみることができる診療の範囲を限定している。
混合診療とは、保険範囲内の診療と範囲外の診療を同時に行うことを言い、 この場合、範囲外の診療に関する費用を患者から徴収することを禁止している。
もし、患者から費用を徴収する場合は、その病気に関する一連の診療の費用は、 全額患者負担となるルールになっている。これがいわゆる混合診療の禁止である。
ただし、例外があり、特別室料や新しい高度先進医癖技術の一部などは患者から費用を徴収してよく、 これが特定療養費制度と呼ばれている。
 最近、以上のルールを変更して混合診療を可能にするべきであるという議論が起きているが、 その是非を議論する前に、まず、 保険範囲内と範囲外の診療を同時に行う場合を仮に混合診療ということにして、 その実情を見てみよう。

     1.保険診療範囲内の診療で回数などに制限があるものを制限以上に行う場合 (以下では制限外混合診療と呼ぶ)
   例えば、がんの血液検査に腫瘍(しゅよう)マーカーがあるが、 この検査の中には月一回しかできないなど制限があるものもある。 患者の中には自分の費用でもう一回検査してほしいという人もいるが、 それは混合診療となりできない。
   2.新医療技術でまだ保険診療として認められていない行為を保険診療と同時に行う場合 (新技術的混合診療)
   医学は進歩するから、専門医の間では認められているが、 まだ保険に採用されていないものは常に存在する。
新しい手術術式などがその例で、こうした新医療技術を患者が私費でもいいから使って欲しいと 言っても混合診療となるからできない。
しかし、新技術の中の高度先進的な技術は、 申請して認められれば医療機関を限定して私費で扱うことができる。
これを「高度先進医療」と言い、特定療養費制度の一種である。
   3.患者の価値観によって選択されるような保険範囲外の医療(価値観的混合診療)
例えば、健康診断などの予防医学的行為、二重まぶたにする美容整形的手術などは保険範囲外であるが、 保険診療と同時に行われることがある。 
 4.政策的に決定された混合診療(政策的混合診療)
政策的判断から特定療養費として患者からの費用徴収が認められているものである。 百八十日以上入院した場合の、入院基本料の患者一部負担などが典型的な例である。
   5.医療行為ではない特別なサービスを保険診療中に受ける場合(アメニティー的混合診療)
   特別室に入院した場台、医師を定めて予約した場合など、 限定された少数のサービスは、特定療養費として費用を徴収して良いことになっているが、 これ以外に多様なサービスが考えられる。

  ◆禁止の根拠再検討必要 
 以上のように、いわゆる混合診療にもさまざまなものがあるが 、実はその中のどれを本当の意味での混合診療と呼ぶかについては解釈の違いがある。
問題は、保険範囲外の診療をどう定義するかという点である。
実は、上記の例の中の保険範囲外の診療はそれぞれ性格が異なっている。
健康診断や二重まぶた手術などは最初から保険診療の対象ではなく、 保険外というよりは保険診療とは関係ない診療行為である。 したたがって、これを同時に行っても混合診療ではないという解釈も成り立つ。
医療に付随するアメニテイー的サービス行為も、 現在保険診療内になっている室料や食事代を除けば、 保険診療と関係ないものであるから混合診療にはならないという解釈もある。
 これに比べ、制限外混合診療で例とした検査は既に保険診療範囲内であるし、 新技術的混合診療では診療行為は将来保険範囲内になる可能性があるから、 これは患者から費用をとれば保険制度に違反する。
従って、新技術には例外的に特定療養費制度を適用しておいて 将来の措置を待つようになっているのである。

   定義上の問題はあるとしても、それではなぜこれまで混合診療を禁止してきたのであろうか。
そもそも今の健康保険制度は医療を現物給付するものであるから、 患者から費用をとる混合診療などありえないという立場もある。
しかし、政策的混合診療に見るように政府自らが混合診療を導入しているから、 禁止する根拠はよく検討しておく必要がある。

 混合診療を禁止する根拠として通常言われているのは、
第一に科学的根拠のない医療行為が行われる可能性があり危険であること、
第二に料金の払える者が良い医療を受けることになり公平性という医療の理念に反すること、
第三に混合診療を認めれば本来保険診療が適用されるものまで適用外となって 保険診療の範囲が縮小の方向に向かう恐れがあることなどである。
しかし、これらの根拠は混合診療に一律に適合するものではなく、 それぞれの形態について一つ一つ検証していく必要がある。
第一の科学的根拠のない医療の問題は、新技術的混合診療に関しては妥当性をもつが、 それ以外の混合診療については妥当性を持たない。
 また、第二の公平性の問題は、価値観的混合診療やアメニティー的混合診療などは、 そもそも保険医療の対象となっていないものを患者が選択するのであるから 保険医療の理念である公平性を欠くとは言えないである。 しかし、新技術に対しては、公平性は確保されなければならない。
また、第三の保険診療範囲の縮小の恐れは、 保険診療の範囲内であるべき医行為が安易に保険医療の範囲から外されることのないように 十分見守っていく必要がある。

  ◆制度に高い理念 硬直化が問題に
 さて、本題に立ち戻って、今の制度を変えるべきなのであろうか。
筆者は、現在の制度は高い理念をもった優れた制度であるが、 その運用があまりにも硬直化しているために、 患者の価値観の多様化に適応できなくなっている点が問題であり、 運用を改善すべきであると思っている。
 問題解決の第一歩は、制度の透明性を確保することである。 そもそも混合診療の定義自体がはっきりしないから、 何が禁止されているのかがはっきりしない。
例えば、日本の保険を持つ外国人患者に対し病院が通訳を用意した場合、 その費用を請求してよいか否かについては混合診療になるという監査官もいるが、 費用をとっても良いという厚生官療もいる。
保険医療とは関係ない診療関連行為をはっきりさせ、混合診療とならない範囲を示せば、 問題の半分以上は解決するであろう。
 第二は、新技術に対する特定療養費制度の運用の問題である。
これを安易に拡大することは避けるべきであるが、 必要なものについては迅速に対応する必要がある。
これまで、手続きが煩雑で対応が遅れたために医学の進歩に対応できなかった例がないわけでない。
また現在は高度先進技術のみであるが、高度先進でない新技術もあるし、 また、制限回数を超えた医療行為を望む患者には特定療養費を認めてもいいと思っている。
一度特定療養費の適用の考え方を包括的に整理する必要がある。
 第三に、患者から費用を徴収して診療を行う場合には、 その診療を望むのは患者であり、医師の側から押し付けでないことを担保しておく必要がある。
そのためには、領収書の発行を義務づけるなど患者への情報の公開を制度的に保証する必要がある。
 以上、混合診療の問題を整理してみた。 医学の進歩と多様化する患者の価値観を日本の医療が十分包容して、 日本のみならず世界の患者をも集めるような医療先進国になることを心から願う。

かいはら・しげこと  
              37年生まれ。東大卒、医学博士。東大教授などを経て
現職・専門は医療情報学  
              日本経済新聞  2004年10月20日


混合診療を考える(下)
 混合診療は、医療保険制度の抜本的改革によって前面的に導入する方法と、 部分的な拡大にとどめる方法が考えられる。
前者は医療保険を現行の現物給付から現金給付に改めて介護保険と統合するもので、
後者は特定療養費制度の対象を予防給付などに拡大する手法である。

  医療と介護保険の統合も 
川渕 孝一  東京医科歯科大学教授

最先端治療で多い自由診療
 日本は国民皆保険といっても、医療には「保険がきく」分野と「保険がきかない」分野がある。
正常な出産や美容整形など保険がきかないものは自由診療と呼ばれる。 その料金は、医療機関が自由に決めてよいことになっており、 全額、患者の自己負担だ。
たとえば、日本で認可されていない抗がん剤を使った治療、 乳がんの手術を受けた患者の乳房再建手術などは自由診療が原則となる。
 また、薬には、保険がきく適応症が決められている。 そのため、新たにほかの病気にその薬が効くことが分かり 、欧米では普通に使われているような場合でも、適応外となり保険がきかない。
それでは、「すぐに保険を認めては」と考えるのが世の常だが、医療財政の制約がこれを阻む。
 患者平等を第一とする日本では、一つの病気の治療に、 保険診療と自由診療を併用する混合診療が禁止されている。 そのため、保険のきかない治療を受けるときは、検査や診察料など本来は保険がきく基本部分も 全部自由診療となる。
つまり、「保険がきかない」ものを一つでも混ぜると、すべて自費となってしまうのである。
「平等な医療を受ける機会を保障した皆保険制度の趣旨に反する」というのがその理由だ。
 新たに開発された治療法や検査法は、保険適応になるまでに時間がかかる。 そこだけ自費で受けたいと思っても、混合診療の壁に阻まれ、 結局最先端の治療を受けられないという不自由な事態を招いている。
 保険のきかない最先端の治療や抗がん剤治療は、 全てが自由診療であるために、かなりお金がかかるものもあり、 まさに「カネの切れ目が命の切れ目」という状況も起こっている。
 例外的に、混合診療が認められているのが、差額ベッド代や予約料、 高度先進医療など厚生労働省が「特定療養費」の給付対象として認めた十二分野である。
この分野では、検査や一般診療、入院費などの基本部分は保険が使えるので、 患者はその三割(年齢によっては一〜二割)と、 差額ベッド代や高度先進医療にかかった費用の全額を負担する。
 一方、混合診療が日常的に行われている現実もある。
たとえば、勃起(ぼっき)不全の患者にバイアグラを出すと混合診療になってしまうので、 糖尿病など別の治療をしたことにしてバイアグラの分だけ全額自己負担で処方する。 適応外の薬を処方するために、ウソの病名を書いたりするなど、 変につじつまを合わせる形で「ヤミの混合診療」が行われている。

  抜本か部分か  改革法に2案
 それではどうしたらよいのだろうか。
抜本的な制度改革と、部分的な改革の二つの方法が考えられる。
抜本的な改革とは、「現物給付」の医療保険制度を、2000年度から始まった介護保険制度のように 「現金給付」に改める。そして最終的には、両制度を統合するのである。
 日本の医療保険制度は、業務外の理由の疾病、負傷、出産、死亡に関して、 保険者が被保険者に現金ではなく、医療サービスという「現物」を給付する仕組みになっている。
給付の内容は、診察、薬剤、処置、手術、看護などである。
これは日本全国、どの医療機関も同質のサービスを提供するという前提に基づく。 被保険者は医療機関にかかったときは、一部負担金のみ支払えばよい。
 これに対して、現金給付の介護保険制度では、
被保険者は介護サービスを受けたときに原則として全額を事業者に支払い、 その後、保険者が被保険者に対して費用を支給する。
制度上は事業者による代理請求が認められているので、実際には保険者が、 被保険者の支払うべき費用を立て替えることが多い。
このため、医療と同様、あたかも介護サービスも現物給付の印象を受ける。
 しかし、両制度は根本的に異なる。
現金給付の介護保険では、被保険者が利用するサービスを自らの判断で選択できるため、 保険給付の範囲外の「上乗せ」や「横出し」などについても自己負担で利用できる仕組みになっている。
 「上乗せ」とは、介護保険の給付上限を超えてサービスを利用する際にかかる費用のことである。 上乗せの部分は市場が値段を決め、全額自己負担となる。
たとえば、保険給付の限度内では短期入所介護(ショートステイ) が月四回までしか利用できない場合でも、 超過した二回分を自己負担にする形で月六回の利用にすることができる。
また「横出し」とは、もともと介護保険給付の対象にならないサービスをいう。
具体的には配食、緊急通報、寝具乾燥、移送、外出介助といったサービスである。
 これらも基本的に全額自己負担となる。
介護が一つの産業分野として有力視されるのは、こうした選択肢が認められたからである。 民間保険会社と提携して介護サービスを提供する企業は今後も増加すると予想される。 つまり、介護の市場化が進むわけである。
 介護保険制度は寛大な給付を認めて財政危機に陥ったことから、 被保険者の範囲を四十歳以上から二十歳以上に拡大して財政基盤を強化する方向で改革が検討されている。 そこで、これを契機に医療保険も現金給付に改め、 介護保険と統合するという抜本改革が考えれる。
そうなれば医療保険でも、被保険者の要望に応じた「上乗せ」 「横出し」など多様なサービスの供給が可能になる。
 しかし、こうした抜本改革はとても無理ということであれば、 現行の現物給付制度を維持しながら「努力する者が報われる」 という形の制度設計が望まれる。
具体的には、現在、保険の対象外となっている予防給付を合法的な混合診療である特定療養費の 対象にすることが考えられる。

  医療費を削減 質向上も促す
 現代の疾病構造は慢性疾患が中心である。 とくに生活習慣に起因すると考えられる慢性疾患は予防のための生活習慣の改善、 つまり「自分の健康は自分で守る自助努力」を求める必要がある。
  たとえば、ニコチン依存症を2002年の診療報酬改定で新設された 「生活習慣病指導管理料」の対象にしてはどうだろう。
これは高脂血症、高血圧症、糖尿病の三つの生活習慣病に関して 総合的な指導および治療管理が重要として設定されたもの。
ユニークな点は、当該三疾患に対する治療は「予防的医療」との位置づけで、 保険給付が行われている点である。
 この管理料は、生活習慣に関する総合的な指導及び治療管理を行った際に算定されるが、 具体的な生活習慣としては、服薬、運動、休養、栄養、喫煙及び飲酒などが含まれる。 その対象疾患をニコチン依存症に拡大すれば、肺がんや心臓病の削減につながる。  その場合、ニコチンパッチやガムは保険外給付とし、 指導・カウンセリグ料は保険の対象とする。 そうすれば、米国のような包括的な禁煙補助療法が日本でも普及するのではないだろうか。
 一方、医療の質の向上に努力している医療機関への"報酬"として、 混合診療が導入できないか。
治療日数を劇的に短縮し、結果的に医療費も削減できる新技術を採用する医療機関に対しては、 削減した医療費の一定額を成功報酬として上乗せ還元するのである。
 ある病院長は「腹腔(ふくくう)鏡下による胆のう摘除手術の入院日数は八日で、 開腹手術より十八日短く、入院料は二十四万円安い」という。 患者にとっては腹腔鏡下手術の方が二週間以上早く社会復帰でき、 自己負担は七万円以上少なくて済む(健保本人の場合)のに対して、 病院収入は二十四万円減少する。これでは安くて優れた先端医療は普及しにくい。
 現行では保険診療の自己負担に割増金を上乗せすることは認められていないが、 一定の治療効果があり、総医療費を削減できた場合は、 削減分の一部を医療機関に還元してもよいのではないか。
こうした「企業努力」へのインセンティブとして混合診療を導入し、 日本の医療の質向上と医療費削減の両立を目指していく必要がある

川渕 孝一 
                  東京医科歯科大学教授  
          1959年生まれ。一橋大卒、シカゴ大大学院修了
専門は医療経済学  
             日本経済新聞  2004年10月21日










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