保険外併用療法(06年)秋元秀俊




Opinion      DENTALTRIBUNE  JapanEdition        岐路に立つ歯科医療・第5回
歯科における新規医療技術の保険導入に一石(上)
「カリエスリスクコントロール療法」保険外併用療養へ一歩
           秋元秀俊(医療ジャーナリスト)
  新しい医療技術について保険で給付すべきか否かを評価する評価療養制度が この10月からスタートするが,これに先立って「カリエスリスクコントロール療法」が, 9月初旬に開催される先進医療専門家会議で評価療養対象技術として検討されることになった。
これは8月3日の同会議で厚生労働省保険局(福田祐典企画官)から公表されたもので, 医療技術の保険収載の仕組みが整備されて以降,歯科分野からは初めての例であり, ほとんどの申請が医学系大学病院からであるなか, 診療所からの申請も医科歯科を通じてこれまでに例がない。
この申請は,日本ヘルスケア歯科研究会(藤木省三会長)によって準備されたものだが, 開業医グループが患者の高いニーズに応えるかたちで診療環境の改善に動いたことは  新規医療技術の保険収載に後ろ向きの歯科系学会の空気を変えるきっかけになるだろう。
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「カリエスリスクコントロール療法」とは
 日本ヘルスケア歯科研究会によると,「カリエスリスクコントロール療法」 という名称で申請されたのは,高い齲蝕リスクが疑われる患者について, 食習慣や齲蝕経験をはじめ必要に応じて唾液量の検査, 齲蝕原性菌量,唾液の緩衝能などをもとに,その患者の齲蝕罹患リスクを判定し, 患者とともにリスクコントロールプログラムをつくって再石灰化処置を行い, −定期間をおいて再評価と再石灰化処置をする齲窩発症前の一連のリスクコントロール療法である。
実質的に,齲窩ができる前の患者の発症前治療と定期管理を行う療法だ。
 先進医療専門家会議ではこの療法について, 将来,保険収載する可能性がるものと想定して, 当面の間,齲蝕処置などの保険診療と並行して患者自己負担で行うことの妥当性が検討される。
審査段階では申請者名は伏せられているが, 同研究会によると○歯科医が申請者。
 ただし関係筋によると,この申請は, 「カリエスリスク検査にかかる機器が薬事法未承認」であることを理由に返戻され, 専門家会議での検討はいったん棚上げされる見通しである。
カリエスリスク検査キットは現在4社から市販,2社が臨床検査サービスを行っているが ,同研究会では,返戻の主たる理由になった薬事法未承認問題につき, 唾液検査関連メーカー各社に体外検査薬としての薬事法承認を取得することを求め, 条件が整えば再度申請するという。
 評価療養について検討する専門家会議では, たびたび薬事法適応外の医薬品(スボンゼル,光線力学療法剤など5件) や医療機器(低周波治療器や磁気刺激装置など5件)が問題になっており, 厚労省側は6月に「先進医療に係る届出等の取り扱いについて」(保医発0630002号)を出して, 未承認または適応外の使用(処方)となる医療機器・医薬品を用いる医療技術については, 薬事法承認を取得することを優先する旨,見解を示している。
 今回は,リスク検査用の試薬でるために例外的扱いになるかどうか不明だったことから, いったん課題に取り上げられたものと見られる。 歯科では,薬事法未承認の医療用具が雑品として販売され, 自家使用名目で頻繁に使われる傾向があり,この点も論議を呼びそうだ。

評価療養の新設
 健康保険法の一部改正により,これまで差額ベッドや金属床など 混合診療を規定してきた特定療養費制度が保険外併用療養と改称され,根本的に再構成される。
新しい保険外併用療養は,新規医療技術について保険給付に組み込むか否かを評価する「評価療養」と, 患者の選択肢を広げるための「選定療養」から構成される。
新しい仕組みとして重要なのは,前者の「評価療養」であるが, 従来,新規技術の保険収載に当たって,臨床成績や費用効果が必ずしも十分に評価されず, 歯科におけるポリサルフォン床義歯のように実績もその評価もない技術が, 単純に政治圧力だけで保険収載される例もあった。これを改めて, 保険給付の可否を,臨床評価や経済評価を重視した専門家の協議によって判断する仕組みに一元化 するものである。

 歯科分野では,いまだに保険収載の可否が政治圧力で決まると誤解する向きがあるが, 医療費抑制下の保険給付の改定には,合理的な根拠が必要条件になっている。
確かに,合理的な根拠があっても財政上の制約が厳しいため, 保険給付の対象が容易に広がるわけではないが, 学術的根拠を無視した保険収載技術の新規採用は,今ではありえない。

 現在,先進医療の評価は,先進医療専門家会議(猿田享男座長,高度先進医療の座長も兼任) において行われており,小泉首相の強い求めで, 申請から結論を出すまで3か月ときわめてスピーディーに運営され, 原則として公開で行われている。
なお,高度先進と先進の2つの評価会議は,健康保険法の改正に件って, 中医協で再編統合の方針を決め,10月以降,新たな1つの評価機関となる見通しである。

医療保障の改善に背を向ける大学関係者
 歯科系の学術団体はこうした制度上の変化にきわめて鈍感で, 今春の診療報酬改定プロセスを見ても, 医科系学会が申請ベースで939件の医療技術の保険収載を申請したのに対して, 日本歯科医学会傘下の学会が申請した医療技術は,たった1件であった。
診療報酬が,古い診療行為の点数を包括化し, 経済効果の高い新しい医療技術を新規収載するかたちでリストラされている事情を考えると,
歯科系の学会の後ろ向きの姿勢が歯科医療に与えるマイナスの影響は無視できない。
 この点で,今回の日本ヘルスケア歯科研究会による先進医療の申請は, わが国の歯科医療保険に対する大学関係者の姿勢を見直す大きなきっかけになるだろう。
歯科の大学関係者のなかには 「保険は学問とは無関係」あるいは「病院経営のためには自費を増やすことが重要」 といった身の回りしか見ない発言が見受けられる。
このため高度先進医療については,多くの大学病院関係者が, 病院のブランドを高め,混合診療を増やして経営に貢献するという意味で意欲的だが, 「高度でない」先進医療には関心が低いままだ。
大学病院関係者は,GTRやエムドゲインを使った治療を 大学病院で行うために高度先進医療として申請してきたが, 医療保障制度のレベルアップという公益的視点には背を向けているのが 一般的傾向だと言っていいだろう。

公益性を優先し臨床研究を進める開業医グループ
 新しい医療技術を保険給付の対象とするためには, 臨床実績とその評価を積み重ねる必要があり, 大学に比べてはるかに条件の悪い開業医のグループが研究予算自弁で 先進医療の申請をしたことによって, 公益性を軽視する大学関係者,また薬事申請を軽視する業界の問題が浮き彫りになったかたちだ。
 日本ヘルスケア歯科研究会では, 先進医療の制度が始まった昨年から準備に取り組んでいたが, 文献だけでも技術の概要を示すもの,有効性を示すもの, 申請者本人の実績を示すものの添付が求められるため, 作業に手間取り,申請が7月までずれ込んだ。
 同研究会では,リスクコントロールを重視した定期管理の普及に努めるとともに, これまでに診療所受診高齢患者の服薬実態と唾液分泌や口腔疾患との関連を研究するプロジェクト を鶴見大学歯学部および北里大学薬学部の協力で実施したり, 学校歯科健診における探針使用の問題を提起するなどいくつもの活動実績がある。

 今秋の同研究会定期学術大会・ ヘルスケアシンポジウム(11月18〜19日砂防会館)では, 定期管理の臨床効果の研究,定期管理のQOL評価の調査研究など定期管理を普及するための 学術事業とともに,評価療養の問題を含む医療環境の整備に フォーカスをあてた取り組みが予定されている。










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