医療はサービス業ではない




安全保障としての医療
ー医療は安全保障でありサービス業ではないー
        川崎市立病院地域診療部長  鈴木 厚
2006年5月
 国家公務員110万人の中で最も職員数の多い職種は何でしょうか。
それは防衛庁と郵政省の職員で両者はともに約27万人です。
そしてこの両者を合わせると国家公務員の約半数を占めることになります。
郵政省の職員には大いに働いてもらいたい。 しかし国家予算の6%を占める防衛庁の職員にはあまり働いて欲しくはありません。 これを正確に言うならば、自衛隊が働くような事態になって欲しくないということです。

 自衛隊は昭和25年から災害派遣や国際貢献などを行ってきました。
そして現在、イラクで活躍していますが、今日に至るまで国防という本来の仕事をしていません。 では「本来の仕事をしていない自衛隊は不必要か」と言えばそうではありません。
かつての日本社会党は自衛隊を憲法違反と批判していましたが、 党首村山富市が連立政権の首相に選ばれると「自衛隊は違法であるが存在は認める」、 さらには「日米安保条約は堅持する」と宣言しました。
政治家の建前と本音はこんなものでしょうが、いずれにしても自国を守るための自衛隊は必要です。
 
次に警察官、消防隊員、救急隊員は地方公務員で、警察官は26万人、 消防職員は15万人です。
彼らもまたなるべく働いて欲しくない。 彼らの活動が少なければ少ないほど良い社会といえるからです。
もちろん彼らは公務員ですから給料は税金から出ています。 ですが誰も彼らが税金の無駄遣いをしているとは思っていない。
それはいざというときに、彼らは日本人の生活を守ってくれる存在だからです。
 自衛隊は国を防衛するため、 警察官は住民の安全を守るため、そして消防隊員は災害と火災から住民を守るため、 そして救急隊員は住民の救護のために必要です。このことはだれも異論はないはずです。

しかし同じ日本人の生命を守る医療はどうでしょうか。
日本人の生命に直結する「国民の医療」そのものがあまりに疎んじられています。
 日本ではどんな過疎地でも郵便物は届きます。 また宅急便もモノを届けてくれます。 しかしもし若い夫婦が過疎地へ転勤を命じられたら悩むことでしょう。
妊娠した場合、子供が病気になった場合、急病となった場合、 まともな医療を受けられない可能性が高いからです。
また過疎地の医師不足が問題となっていますが、過疎地の医療を依頼されたとして も、多くの医師は断るでしょう。
それは教育などの家庭の事情もありますが、もし自分が自分の専門外の病気になった場合、 医師である自分でさえ必要な医療、適切な治療を受けられないからです。

 政府は医師過剰時代と宣伝しています。
また看護師も過剰として看護学校を減らしています。 しかしどこが医師過剰、看護師過剰なのでしょうか。
医師の地域的偏在が指摘されていますが、都市部で医師が余っている訳ではありません。 都市部の病院も医師不足が問題になっており、過疎地ではそれ以上に医師が少なすぎるのです。
全国の病院の25%が医師の配置基準を満たしていません。 しかもほとんどの医師や看護師は労働基準法違反の労働を強いられています。
 過疎地の病院は常に医師不足で、都市部の大病院でも過酷な労働条件、 患者からの感謝の気持ちの低下、 重い責任が精神的圧迫となり医療従事者のモチベーションが低下し 医師や看護師が病院から逃げだしているのが現状なのです。

 昨年、インフルエンザワクチンが3万人分不足して社会問題となりましたが、 実際にはある病院が抱え込んでいて在庫が生じていたのです。
つまり国民の安全を守るためには、 ワクチンは2割程度余るような余裕を持たなければいけないのです。
このように生活を守るためには余裕のある医療が大切なのです。 これを無駄だというのは、安全保障という概念の欠如した考えだとおもいます。

 自衛隊は国防のために存在しますが、彼らの存在は海外への抑止力だけで十分です。
これと同じように普段は必要がなくても、 いざというときに受診できる医療機関が近隣にあることが絶対に必要です。
小児科医のいない所に安心して若夫婦が住めるはずはありません。
一人暮らしの老人でも歩いてゆける距離に医療機関があればそれだけで安心です。 いつでも医療機関を受診できるという安心感、 この安心感こそが国民医療にとって最も大切なことです。
 医療は社会的基盤なのです。
病院が近くにあれば、それだけで住民は安心して生活できるのです。 この医療という社会的基盤が崩れれば、国民は不幸になるだけです。
国や地方自治体は、国民や住民に対して公的なサービスを行う責任があるはずです。 住民が安心して住める社会、つまり医療、介護、福祉、治安の維持を堅持することが 責務のはずなのです。
しかし現在、国のみならず地方自治体も病院の赤字縮小ばかりを考え、 公的病院を廃院にしようとしているのです。

 日本人を外部から守る自衛隊、そして日本人を内的から守る医療機関、 この両者の理念は安全保障という点において同じです。  この国民の健康と生命を守る日本の医療を、あるいは病院や診療所を、 自衛隊、警察、消防、救急と同じように国民の安全保障と捉えるべきです。
そして犯罪の増加により警察官1万人の増員が決定している。  医師たちは自衛隊や警察のように訓練の時間もなく徹夜で働いて 翌日手術を行っても誰も評価しない. 労働基準法違反の労働を当然と考え過労で倒れても周囲は医師の不養生という。
過労で医療事故を起こしても世間は医師の怠慢とみるのです。
 医療の質の向上と安全を求めるならば、医療にもそれ相応の費用をかけるべきです。 医療を経済で考える最近の風潮ほど愚かなことはありません。

 政府やマスコミは「医療費の論議を医療機関の儲け話」にすりかえ、 「医療事故を医師や看護師の資質の問題」にすりかえ、 医療を国民の安全保障として真剣に考えていない。
国民が日本の医療に望んでいることは、「医療の質と安全性の向上」 であるが、医療費抑制政策ではこの国民の願いを達成することは不可能なのです。
医療の質と安全性を高めるためには、諸悪の根元である医療費抑制政策を転換させるべきです。 医療は国民の生命を守る安全保障でありサービス業ではないのです.
医療をサービス業と誰が考えたのか.国民に媚びるようなこの言葉は, 医療が悪いのはサービスを行う医療側が悪いという大きな誤解を生んでいるのです.











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