米山先生・後期高齢者医療における歯科医療の役割




米山・・後期高齢者医療における歯科医療の果たすべき役割
ヒアリングで発言した米山先生の資料と議事録も見られます。
平成18年11月20日議事録12月27日 06/11/20
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/txt/s1120-3.txt
平成18年11月20日資料 06/11/20
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/s1120-7.html

○米山氏 
 ただいま御紹介いただきました米山歯科クリニックの米山でございます。 本日、私に与えられたテーマは、後期高齢者の医療における歯科医療の果たすべき役割 ということでございますが、時間が大変限られておりますので、 後半のスライドは割愛させていただくことになろうかと思います。 その際、お手元の資料を御確認いただければ 幸いでございます。
 後期高齢者に対する歯科医療の意義ということですけれども、 およそ次の3つに集約されるのではないかと思っております。
1つは、低栄養と誤嚥性肺炎等の予防による健康寿命の延伸、 それから食べる楽しみ、話す楽しみの享受によるQOLの改善。 それから障害を持った口腔に対するリハビリテーションとしての意義ということです。

 私事で大変恐縮ですけれども、 昨年7月にNHKラジオ「ラジオ深夜便こころの時代」に出演させていただき、 口は長生きの門というテーマで話をさせてもらいました。
その後、思いがけず、多くの方から、お手紙やファクスをいただきました。 一見幸せそうに見えて、口が思うようにならないことで、 生き地獄であったりする現実をその中から知らされました。
このことが終末期、あるいは後期高齢期に本人 と御家族が直面する本当の苦しみであるように思います。
その中から一部お手紙を御紹介したいと思います。

 脳血管障害を患い、「口から食べられない夫に、 何とか一口でも食べられるようにさせてあげたい。」 「意識がない妻に口腔の体操をやってもう一度目を開いてもらいたい。」 「何でもしますから、脳に刺激を与を与える口腔ケアを教えてください。」 「肺炎で生死をさまよったことがあります。どうか効果的な口腔ケアを教えてください。」 「主人のよだれがとまりません。どこか相談に乗っていただける医療機関はないでしょうか。」 などなどでした。

 私はこの経験を通して、世の中の人々がいかに口腔のことで悩み、 困っているかを痛いほど知らされました。
心の時代にふさわしい医療のあり方が問われているのではないかと、思った次第ございます。

 歯と口腔の働きということですけれども、皆さん最初に言われるのは食べることです。 そのほかに消化への関与、構音・発音、力の発生、顔貌を形づくる、 平衡感覚の維持、愛情、怒りなどの感情表現、異物の認識と排除、 免疫物質の分泌、脳への刺激、ストレスの発散、味覚、呼吸への関与等々、 数多くの歯と口腔の働きがあることを、我々は忘れてはいけないと思っております。

 それではしっかり口腔は今まで守られてきたのか。 今守られているのかということについてお話したいと思います。
私が大学を卒業した直後、特別養護老人ホームの非常勤をさせてもらいました 27年前の話なんですけれども、最初に老人ホームに行きまして拝見した口腔内は、 おびただしい歯垢の堆積がありまして、 歯はあってもその機能をなさないという状況でした。
義歯は入れっぱなしになっています。 その義歯を外しますと、その中には、これまたおびただしい歯垢がついておりました。
 何より困ったのは口臭でした。
4人部屋でお1人口腔の管理がなされていない方がいらっしゃれば、 施設臭となって独特のにおいとなってあらわれるということで、 大変ショックを受けたのを覚えております。
 学んだことは、要介護者の口腔環境というのは、 だれかがケアをしない限り、悪くなることはあっても自然に改善することはない。
そして心も老化してしまう。口腔は死を迎えるまで大切な器官であるということであります。

 それですぐさま同僚の歯科衛生士に声をかけまして、 歯垢のコントロールを基本とした専門的口腔ケアを開始したわけです。
 最初は、歯科というとすぐ治療を思い浮かべる人がほとんどで、 戸惑いもあったんですけれども、そのうち、歯肉炎は確実に改善し、 異臭、口臭は改善しました。
そして何より、利用者の方から、こんなにいいことだったらもっと早くやってほしかったという おしかりと励ましの両方の意味の言葉をかけられたんです。
 そして27年がたちました。
つい最近のことですけれども、訪問診療の依頼を受けました。 86歳の女性です。在宅療養をされています。脳卒中の後遺症で、寝たきりの状態です。 この方のご家族から「口から食べることが虫歯があって非常に難しいとので診てくれ」 という訪問の依頼でした。
そしてお口の中を拝見しましたら、何と27年前と、何ら変わっていない。
おびただしい量の歯垢がついていますし、歯肉の炎症が激しくありました。 何よりも、虫歯が進んでおりまして、かめるどころの騒ぎではありませんでした。
 この方の場合、88歳の御主人が介護しているということで、老老介護になっている状況でした。 そこからともに、何とか口の中をよくしようということで、 1カ月たっておりますけれども、ようやく光が見えてきたところであります。
 現状を考えてみますと、歯科治療が必要な人は実に多いのですが、 治療を受けている人は、少ない。 治療とケアが一体となったときの効果について知られていないという現状でございます。 口腔ケアという言葉が盛んに最近使われていますが、 狭義の意味におきましては、口腔内の衛生状態を改善し、 口腔疾患と口腔内に起因する全身疾患の予防に努めるということでありますけれども、 先ほど申し上げましたように、口腔にはまだまだ多くの働きがあるわけです。
口腔の持つ種々の働きや、機能が障害された場合、 これらの働きをより健全に機能するようケア(手助け)をするという、 大事な意味がここにあろうかと思います。

 この口腔ケアの目的ですけれども
第1に感染の予防、
2、口腔機能の維持回復。
3番目、全身の健康の維持回復及び社会性の回復というものが挙げられるかと思います。
 そして口腔ケアの内容ですけれども、口腔清掃、歯石除去、 義歯の清掃・管理、摂食・咀嚼・嚥下機能の回復、誤嚥性肺炎、 低栄養の予防に配慮した口腔の管理ということになるかと思います。
 しかしケアだけでなく、従来からある歯科の治療というものが、 非常に重要だというふうに認識しております。
しかし一般の診療所で対応するよりもはるかに多くの時間と労力、 経験と技能を必要とするというのが正直なところでございます。
 本日1つ症例を持ってまいりましたので、御紹介したいと思います。 この御婦人、勝又さんにお許しを特にいただきまして、 皆さんに御紹介するわけですけれども、 上下、歯がない部分がありまして義歯がつくられていなかったんですが、 どうしても御本人が施設職員の方に、義歯をつくってほしいという要望を 言われ歯科チームに伝達されました。
 当初舌が不随意の激しい運動をしているために、 義歯をつくるのが、正直言いまして非常に難しいということで、 ためらったんですけれども、御本人がどうしてもつくってほしいという要望がございましたので、 ご本人と周囲のスタッフの協力をいただき、つくった症例でございます。
 最初はちょっと声が出ていないんですけれども、 見ていただいておわかりのとおり、不随意の舌の運動がございます。 オーラルディスキネジアというふうに診断がなされるかと思います。
非常に食事が楽しみで、3食の食事を何よりも楽しみにしていらっしゃって、 全量召し上がる。しかし食べたものが、口の周りについたり、食べこぼしが頻繁にあるという 勝又さんでありました。
 この方に対して、最初に口の機能向上を図りまして、 口の型をとっていくというプ ロセスをとりました。
(ビデオによる事例の紹介)
 仮の義歯を入れた途端にオーラルディスキネジアがとまってしまいました。 外した途端にまた始まりました。
 義歯が入っていないときには、全量をいつも召し上がっていたのですが、 どうも身につかなかったようであります。
平成16年3月、血清アルブミン値2.9g/dl、いわゆる3.5の境界以下ということで、 低栄養状態を呈しておられました。
義歯が6月に入ってから3カ月後3.8g/dlに改善いたしました。
それから平成17年2月には4.2g/dlになりました。 ですから低栄養の状態を脱することができ顔色がよくなって表情が大変明るくなりました。
 今では赤いスカートをはき、施設職員に逆に 「まあ、お忙しいそうですね」と、声をかけられる。 この方は食べる喜び、話す喜びがある時期までなかったわけですが、 それが改善したことによって人生ががらっと変わったわけです。
そのことを施設職員の皆さんがしっかり見ていたわけです。

 一方高齢者のQOLを下げる原因として、もう1つ重要なことがあります。
ある老人病院における死亡者の主要基礎疾患と直接死亡原因について、 東北大学チームによる研究報告ですけれども、 お亡くなりになった方が生前有していた基礎疾患のうち 脳血管疾患が3分の1を超えるということがわかっておりまして、 その方々がどういう形でなくなるかというのを見てみますと、 肺炎を主たる、中心とする感染症で亡くっています。
これを端的にいいますと日本人のお年寄りは、脳卒中を患い、 亡くなるという死亡のパターンが見えてくるわけです。
この肺炎ですけれども、最近の研究によりますと、口の雑菌がかなり悪さをするということ がわかってまいりました。
 そればらば口の雑菌をきれいにコントロールしたならば、 肺炎を予防できるかという疑問が出て来ます。
以前までは、世界中この疑問に答えた研究はございませんでした。
そこで厚生労働省の「呼吸不全に関する研究」が行われました。 研究デザインは簡単でございまして、従来どおりの群と従来のケアに加えて、 1週間に1回歯科衛生士が専門的な口腔ケアということで、 徹底的に口の中の雑菌を除去して、 口の中をきれいにする口腔ケア介入群を比較したわけです。

その結果、2年間に口腔ケア群は、このグラフにありますように、明らかに、 肺炎のパターンを減少することができました。
具体的には、2分の1以下に減少することができたわけです。
 2年間の肺炎の発症率でありますけれども対照群が19%だったのに対して、 口腔ケア群は11%ということで、単純に計算しますと、 40%の肺炎の予防効果がありました。
これが口のケアと肺炎に関する世界で初めての介入研究になったわけでございます。
 それから無歯顎者、歯がない方の肺炎の発症状況でございますけれども、 入れ歯を入れている人の発症状況が11%であったのに対して、 入れ歯がないという人は29%ということで、 入歯を入れて機能を有している人の方が、 有意に肺炎の発症が抑制されたという結果を得ることができました。
 実際に在宅の訪問診療をしておりまして、 在宅の方が病院に再入院する理由の多くが、口から安全に食べられず、 熱発に引き続き再肺炎を起こすというケースが多いことに驚かされます。
それゆえこういう口のケアのネットワークが早い段階にできていたらどんなにいい だろうということを感じています。
病院にいるときから、あるいは入院時から、 地域で口にかかわる多職種のネットワークができていたら、 在宅介護がどんなに安心になるか。
 実際、今医師の方々に御理解をいただきまして、 回復期病院における、カンファレンスに参加させてもらっております。 そしてそこから得た情報を活かし、地域の中で口のケアの試みをさせてもらいました。 その情報をまたカンファレンスに返すということをやっておりまして、 一番喜んでいただいているのが家族の方々でございます。

 このほか肺炎の予防と免疫力ということについては、 栄養の問題が横たわっているかと思いますが、時間の関係で割愛させていただきます。
 口腔にかかわる現状というものがお手元の資料の後半ににあるかと思います。 必要度が高いにもかかわらずあるんですけれども、まだまだ行き届いていない、 厳しい現状があるかというふうに認識しております。

 もう後半ですけれども、これは兵庫県から出されたデータで、 後期高齢者80歳以上の方々のデータを見ていただきますとわかるのですが、 8020の達成者と非達成者では一般の医療費の額がはるかに違うんです。
ですから歯を残すことの意味は、ただそこに歯があるというだけではなく、 医療費の問題にも影響してくると感じております。

 それでは時間ですのでまとめたいと思います。
1、 後期高齢者の健康寿命を延長するためには、 口腔ケア管理を含む歯科的介入はぜひ必要である。
2、特に誤嚥性肺炎や低栄養の予防のためにも、 口腔機能の向上及び義歯の装着・調整を含む維持管理などが必要である。
3、唾液分泌が減少し、極度に口腔乾燥が起きやすい終末期においては特 に口腔の維持管理が大切である。
4、後期高齢者の健康保持のためには早い時期から歯の喪失が防止されるよう、 虫歯や歯周病の管理が必要である。

   以上でございます。御静聴ありがとうございました。










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